消え失せろボケ!!!
 
おおおっと!?
 
怒鳴った侑魔君の手加減も容赦も零の蹴りが妖怪を一匹捕らえ、蹴り飛ばす。
 
一瞬メキッと凄まじい音を立てて妖怪は吹っ飛び、別方向で私を守るようにして戦っていた優君の張った防壁を掠めて飛んでいった。
 
正直かなり危ない
 
優君も不意の事でかなり吃驚したらしい。
 
「優君、大丈夫!?」
 
「平気平気!僕には掠ってもないし」
 
「良かった・・・」
 
優君に思わず声をかけると、いつも通りのやんわりとした口調で返してくれた。
 
そんなやり取りをしながらも的確に防壁で相手を吹っ飛ばしている辺りが、戦闘慣れしているというか何と言うか…。
 
例えその真横にグチャグチャのスプラッタの死体が転がっていてもある程度許容できるようになってしまうオーラが出ていると思う。
 
そんな事を考えていた矢先、私の真後ろでまたしても轟音と共に、敵が凄まじい勢いで吹っ飛んでいった。
 
「っらぁ!!くたばれチ××ス!!!!!!
 
ちょ侑魔君口悪いよ!
 
すまんつい!
 
そんなやり取りをしながらも、侑魔君と優君は意識をある一点からずらす事はなかった。
 
文字通り高みの見物をする、四神の一人から。
 
既に人の形に納まった彼からは、凄まじい殺気のような物が全身から滲み出ているような気がした。
 
『余興・・・ハこノ位にし・・・ておコうか』
そう言った瞬間。
 
彼の姿が掻き消えた。
 
次に私の目が彼を捉えた時には、彼は物凄いスピードで現れ、侑魔君と優君にタックルをかましていた。
 
「うあっ!?」
 
「っ・・・・・・!」
 
それをまともに喰らった二人は、至極あっさりと吹っ飛んで、凄まじい音と共に近くの壁に叩きつけられる。
 
優君が防壁を張った為か、壁は丸く窪んでいる。
 
それだけの力をまともに浴びた二人も、当然無傷ではない。
 
侑魔君は頭から血を流してフラつき、優君は受身を取った際に片腕にダメージを受けたのか、左腕を力なく垂れ下がらせている。
 
「二人共!!」
 
悲鳴のような声と共に駆け寄ると、二人は私を一瞥してから、敵に鋭い視線を向けた。
 
一撃だけで、こんなにダメージを食らうなんて。
 
改めて『神』の恐ろしさを痛感せざるを得なかった。
 
「・・・ちっ、流石に鬼の位じゃあ、曲りなりとも神に太刀打ちすんのは骨が折れるな・・・」
 
「防御壁張ってもコレか・・・」
 
優君と侑魔君は各々そんな風に呟きながら、軽く舌を打っていた。
 
相手は一体だけだというのに、こんなにも苦戦を強いられるなんて。
 
(・・・他の人たち、大丈夫かな)
 
そんな事を考えながら、不意に大きく脈を打つように痛んだ頭を押さえる。
 
先刻からこんな調子で、頭痛がずっと続いている。
 
弱い痛みが断続的に続いて、それで居て時折不意に思い出したように激しく痛むのだ。
 
「っ・・・」
 
頭痛が治まらない。
 
耳鳴りと、グラつく視界で、立っているのも辛い状態になっている。
 
それでも
 
現在進行形で戦闘中の二人の足を引っ張るようなことはしたくなくて、必死で足を踏ん張った。
 
「あーもー雑魚うぜぇ!」
 
心底苛立ったように、それで居て虚勢を張るようにして、侑魔君はここぞとばかりに飛んできた妖怪を切り飛ばす。
 
その動きにも、いつものような余裕はない。
 
「・・・」
 
優君は最早防御に回り、ひたすら敵をなぎ倒す侑魔君の防護を受け持っているらしい。
 
それぞれの得意分野に集中する作戦に出たらしい。
 
やや苦戦気味のその様子を見て、四神がニィッと口元を裂かせるようにして嗤った。
 
笑みとも言えない代物だったけど。
 
『鬼・・・風情が、神に逆らうカら・・・ダ』
 
「はぁ!?何言ってるか『・・・』と途中のカタコトの所為で聞き取り辛いよお前の喋り方!」
 
「言ってる場合じゃないよねそれ・・・」
 
いつものようなやり取りを二人が交わした瞬間、四神が再び動いた。
 
まるで侑魔君と優君の虚勢をもあざ笑うようにして、その腕で二人を殴りつけた。
 
防御壁に亀裂が入り、弾け飛び、二人は後方に吹っ飛ばされた。
 
「ぐ、ぅっ!!!」
 
「つっ――――・・・」
 
何かが折れるような音が聞こえた気がした。
 
二人は激しい砂埃の中で何とか立ち上がりはしたものの、到底まともに戦える状態には見えない。
 
ましてや相手は、二人が万全の状態で挑んでも危ないような四神・・・。
 
こんな状態じゃ、勝てる見込みなんて・・・。
 
「あ゛ー!!!クッソ鬱陶しい!!!!」
 
「白亜ちゃん、怪我してない?」
 
苛立ったように舌打ちをして、敵を力いっぱい睨みつけ、未だに戦闘態勢を崩さない侑魔君。
 
優君はそれとほぼ同時に私に目を向けて、問いかけて来る。
 
二人の瞳は、まだ輝きを失っていない。
 
私は一瞬でも侑魔君と優君の事を『負けるかも知れない』なんて想像した自分を恥じた。
 
「大丈夫・・・!二人は!?」
 
「「平気!」」
 
慌てて問いかけた私に、再び飛んできた妖怪達を吹き飛ばしながら、侑魔君と優君はほぼ同時に叫んできた。
 
そんな状態でも私に答えてくれることが、状況を考えると不謹慎ながらも嬉しかった。
 
しかし、不意に。
 
私の真正面に、強大な気配が現れた。
 
『・・・人間・・・ノ・・・小娘。 気に食わない、匂イガすル・・・』
 
「ひっ!?」
 
そこには。
 
いつの間にか、能面のような顔をした、四神。
 
そこから発せられる膨大な殺気に、全身が一気に冷たくなった。
 
「白亜!!!」
 
侑魔君達が慌てたのが気配で解る。
 
それと同時に、敵が腕を振り上げたのも。
 
このままでは、殺される。
 
死にたくなんかない。
 
だけど私では出来る事なんて限られてる。
 
人並みはずれた瞬発力も、体力もない。
 
私は反射的に、迫る攻撃から逃げるようにして目を瞑った。