次に私の目が彼を捉えた時には、彼は物凄いスピードで現れ、侑魔君と優君にタックルをかましていた。
「うあっ!?」
「っ・・・・・・!」
それをまともに喰らった二人は、至極あっさりと吹っ飛んで、凄まじい音と共に近くの壁に叩きつけられる。
優君が防壁を張った為か、壁は丸く窪んでいる。
それだけの力をまともに浴びた二人も、当然無傷ではない。
侑魔君は頭から血を流してフラつき、優君は受身を取った際に片腕にダメージを受けたのか、左腕を力なく垂れ下がらせている。
「二人共!!」
悲鳴のような声と共に駆け寄ると、二人は私を一瞥してから、敵に鋭い視線を向けた。
一撃だけで、こんなにダメージを食らうなんて。
改めて『神』の恐ろしさを痛感せざるを得なかった。
「・・・ちっ、流石に鬼の位じゃあ、曲りなりとも神に太刀打ちすんのは骨が折れるな・・・」
「防御壁張ってもコレか・・・」
優君と侑魔君は各々そんな風に呟きながら、軽く舌を打っていた。
相手は一体だけだというのに、こんなにも苦戦を強いられるなんて。
(・・・他の人たち、大丈夫かな)
そんな事を考えながら、不意に大きく脈を打つように痛んだ頭を押さえる。
先刻からこんな調子で、頭痛がずっと続いている。
弱い痛みが断続的に続いて、それで居て時折不意に思い出したように激しく痛むのだ。
「っ・・・」
頭痛が治まらない。
耳鳴りと、グラつく視界で、立っているのも辛い状態になっている。
それでも
現在進行形で戦闘中の二人の足を引っ張るようなことはしたくなくて、必死で足を踏ん張った。
「あーもー雑魚うぜぇ!」
心底苛立ったように、それで居て虚勢を張るようにして、侑魔君はここぞとばかりに飛んできた妖怪を切り飛ばす。
その動きにも、いつものような余裕はない。
「・・・」
優君は最早防御に回り、ひたすら敵をなぎ倒す侑魔君の防護を受け持っているらしい。
それぞれの得意分野に集中する作戦に出たらしい。
やや苦戦気味のその様子を見て、四神がニィッと口元を裂かせるようにして嗤った。
笑みとも言えない代物だったけど。
『鬼・・・風情が、神に逆らうカら・・・ダ』
「はぁ!?何言ってるか『・・・』と途中のカタコトの所為で聞き取り辛いよお前の喋り方!」
「言ってる場合じゃないよねそれ・・・」
いつものようなやり取りを二人が交わした瞬間、四神が再び動いた。
まるで侑魔君と優君の虚勢をもあざ笑うようにして、その腕で二人を殴りつけた。
防御壁に亀裂が入り、弾け飛び、二人は後方に吹っ飛ばされた。
「ぐ、ぅっ!!!」
「つっ――――・・・」
何かが折れるような音が聞こえた気がした。
二人は激しい砂埃の中で何とか立ち上がりはしたものの、到底まともに戦える状態には見えない。
ましてや相手は、二人が万全の状態で挑んでも危ないような四神・・・。
こんな状態じゃ、勝てる見込みなんて・・・。
「白亜!!まだか!?」
私の暗い思考に割り込んできた侑魔君の声は、切羽詰っていた。
侑魔君は、早く思い出せと言っている。
戦いを終わらせられるという『言霊』を。
侑魔君を・・・殺す事になる『言霊』を。
「そんな・・・事言われたって・・・」
当然のように、私の脳裏にはそんな物欠片も浮かんでこない。
浮かんできたとしても、私に侑魔君を犠牲にする事なんて出来る訳もない。
本人はとっくに覚悟を決めたのかも知れない。
だけど、私は・・・。
(どうしたら良いの!?)
泣きそうになりながら、私は四神に目を向けようとして―――凍りついた。
『・・・人間・・・ノ・・・小娘。 気に食わない、匂イガすル・・・』
四神は、私の真正面に来ていた。
虚ろなままの、それでも不自然にぎらついた瞳に見据えられて、動きが取れなくなってしまった。
「ひっ!?」
「!?」
「白亜!!!」
苛立たしそうに呟いた四神が、腕を振り上げた瞬間。
私は自分が『死ぬ』瞬間が間近に迫ったのが解った。
死ぬ。
殺されてしまう。
痛イノハ、嫌ダ。
――――怖イ。
「嫌ぁあああああああ!!!」
私は無様に悲鳴をあげ、やってくるであろう痛みから逃げるようにして両目を硬く瞑った。
BGM@あんなに一緒だったのに
こんなタイミングだろうが何だろうがギャグは織り込んでみる俺。
せめてこの月明かりの下で、静かな眠りを。