「・・・そろそろ、だね」
 
呟いて、町の中心に当たる部分から全体を見回す。
 
何となく気配で解る、町に起きている異常。
 
嫌な気配が、膨らんでいる。
 
「ん。先刻から気配が高まってるしね。そろそろだ」
 
お兄さんが状況にそぐわないのんびりした声で言って、視線を遠くへ向ける。
 
ただその視線には、いつものようなふざけた色は無くて、ただ鋭さのみがあった。
 
「全員、持ち場は解ってる?あと作戦」
 
『勿論』
 
翔魔君の確認に、全員が頷いて返す。
 
その雰囲気は、これから大きな戦闘があるという確信を持っていて・・・私の緊張を煽る。
 
それをスッと見回して、お兄さんはある一点で視線を止めた。
 
「・・・侑魔は?」
 
静かな声で名前を呼ばれて、侑魔君も無言のままでお兄さんを見上げる。
 
そして、凛とした表情で頷いた。
 
「・・・解ってます」
 
頷く侑魔君の目には、覚悟の色があった。
 
本当は、そんな覚悟・・・決めて欲しくないのに。
 
好きだと言ってくれた侑魔君の言葉が、ぐるぐると頭を回る。
 
「・・・侑魔、君」
 
少し厳しい表情だった侑魔君が、ゆっくりと私に視線を向ける。
 
その目を真っ向から見つめ返す勇気はなくて、もやもやした気持ちのままで、思わず俯いた。
 
「・・・白亜」
 
躊躇いがちに名前を呼ぶ声にも、顔を上げられない。
 
ねえ、誰か教えて。
 
私は、どうしたら良いの?
 
「―――」
 
諦めたくなんか、ないのに。
 
どうしてそんな風に静かな表情で居られるの?
 
         ☆☆☆
 
「それじゃあ、侑魔・優、翔魔・湊、魅艶・時雨、爾・皐月の面子で、手筈道理に頼む」
 
『解りました』
 
要するにお兄さん以外のメンバーで、今復活しかけている四神とやらを止めろ、という話らしい。
 
それぞれ決められたペアで頷き、お兄さんを見つめている。
 
そのお兄さんはと言えば、不意にいつもの笑みを浮かべて私の方を振り返り、ニッコリと笑った。
 
嫌な予感しかしないのは気のせいか。
 
「じゃあ白亜ちゃん。君は侑魔達と行ってくれる?」
 
「・・・解りました」
 
半ば予想していた展開に「来たか」と思いながらも、頷いた。
 
本当は、嫌なのに。
 
「?・・・危なくないですか?」
 
「お兄さんと居た方が良い気もするんですけど・・・」
 
事情を知らないらしい優君と、爾君が声を上げる。
 
お兄さん曰く、全員がこの事を知るのは、コレが終わってからだという事だ。
 
『侑魔君』が消えて初めて、全員はそのシステムを知ることになるらしい。
 
「後で解るよ。・・・ねえ?翔」
 
「・・・まあ、ね」
 
ただ、翔魔君はリーダーであり、お兄さんの弟でもあるから・・・例外的に知っているらしい。
 
侑魔君を見て僅かに目を細めた後、ぶっきらぼうに呟いた。
 
『――――ガァァアアア!!!』
 
何かの雄叫びによって、突如地面が揺れる。
 
町の中心が、既に光り始めていた。
 
怖い。
 
本能的な恐怖が、私の胸を支配する。
 
「全員、元の姿に戻って出陣」
 
『了解』
 
翔魔君が短く言った瞬間、返答した全員の体が光り―――・・・。
 
「!!」
 
瞬きをした瞬間には、全員の頭に『角』が生えていた。
 
コレが、鬼である彼ら本来の姿らしい。
 
「・・・白亜、行こう」
 
静かすぎる声に顔を上げると、侑魔君の金色の瞳と、一瞬だけ視線が交差した。
 
「―――うん・・・」
 
それから直ぐに俯いてしまった為、侑魔君がどんな表情をしているのか、私には・・・解らなかった。
 
         ☆☆☆
 
「結界が不安定になって、妖怪達が外に出ようとしてる」
 
遠くを見つめながら、優君がいつに無く真剣な様子で呟いた。
 
優君はどうやら私と侑魔君の間の空気を読んだらしく、先刻から気遣わしげに此方を見つめてくる。
 
本当は優君に侑魔君の事を教えて、助けて貰いたい。
 
でも、侑魔君自身から『無駄な事だろ』と一蹴されて、今に至る。
 
怖くて何も行動を起こせずに居る臆病な私は、子供以下だ。
 
情けない。
 
「雑魚ばかり殺っても、この地帯に気を充満させてる奴を倒さないとならないな」
 
そう言った瞬間、再び大地が揺れて、何かが町の四方から噴出した。
 
赤黒い靄に包まれたそれは、まるで火柱のようだ。
 
それが発生したと同時に、頭を鈍器で殴られたかのような痛みが走る。
 
「・・・っつ・・・、アレ、何・・・?アレが出てきた瞬間、頭痛が・・・」
 
一瞬二人の注意が此方に向いて、何かを言おうとした瞬間、別の何か・・・先刻の赤黒い靄の塊が、此方に飛来してきた。
 
「「!」」
 
靄は私達の前方にボタリと落ち、それが徐々に人の形になっていく。
 
そのどろどろした人型がきちんとした形に近づくにつれて、そこから発生する威圧感と頭痛が、酷くなる。
 
『鬼・・・共、・・・我、ラヲ・・・封印、シタ、下郎・・・』
 
何処から発生しているのかも解らないその人型から発生する声は、低く、地獄の底から這ってくるような声だった。
 
恐らく、コレが・・・四神の一人。
 
神と私の間に入っている侑魔君と優君が、私を庇うようにして立ち、妖怪を睨みつける。
 
「・・・元旧神とは言え、神堕ちしちまった馬鹿に下郎呼ばわりされる覚えはないな」
 
「雑魚も集まってきたよ・・・どうする?」
 
優君が言ったとおり、私達の周辺には、四神の気に当てられて妖怪になってしまった人たちが集まってきていた。
 
コレは全部、元々人だった存在たち。
 
これから人を目指す予定だった存在たち。
 
聞いた時はまるで試験を事故で中断させられてしまってるようだと思ったけど、コレは・・・今この状況でそんな同情心めいたものは沸かない。
 
「・・・どうするも何も・・・・・・、俺達はやるべき事やろうぜ」
 
「まあ、それしかないね」
 
「ん」
 
そんなやり取りの最中も、侑魔君はきわめていつものような表情。
 
だけど・・・、そこに僅かに含まれる、諦念めいた感情。
 
「んじゃ、行く?」
 
「・・・そうだね」
 
侑魔君の表情と、私との間に流れる空気から何かを察したのか、優君も物言いたげな表情になったものの、追求はしなかった。
 
しても侑魔君が答えないと思ったのかも知れない。
 
 
 

BGM@君がくれたもの
選択肢がマジで・・・大変だ。
早くも三ルート用意した自分を怨んでおります。
ごめんね林檎嬢(滝汗
ってか飽きっぽい上に面倒臭がりの自分の性格に心底自己嫌悪です。