じー。
現在は昼食時。
私は一足早く食べ終わって以降、侑魔君の手がクロスワードの空欄に文字を入れていくのを無言のまま見つめる。
「・・・・・・」
じ―――。
不意に、その腕がぴたりと止まった。
・・・?
何かとおもって視線を上げると、侑魔君が若干訝しげな表情で此方を見ていた。
「・・・?何?」
「え?いや・・・何でもない」
視線に気付かれていたらしい。
慌てて言った私の言葉に納得していないのか、侑魔君は再び猫みたいに首を傾げる。
・・・まずいな・・・今の私の心境を少女マンガの予告風に説明すると・・・
私を守ってくれているあの人に、私は密かに想いを寄せていた――。
彼のお家に遊びに(じゃなかったけど)行った時、実は彼と私が両想いである事を知ったの!!
もおびっくり!!きゃっ☆
でも、両思いになったものの・・・昨日の事が夢見たいで、どうしよう・・・みたいな感じ!!
白亜の恋物語・・・どうなっちゃうのお!?みたいなー。
・・・寒っ。
自分でやっといて何だけど、寒すぎる。
そんな思考を繰り広げてやや自分に吐きそうになっている私をまじまじと眺めて、侑魔君は沈黙した。
・・・変な事考えてたのがバレた?
どうしよう、と慌てて俯く。
「・・・・・・あー。はいはい。白亜?」
「へ? ――――っ!?」
名前を呼ばれて顔を上げると、侑魔君の顔を結構近くにあって吃驚しました。
ぶっちゃけ心臓が飛び出してアメリカとかまで飛んでいくかと思った。
自由の女神に突き刺さるよ。
私の狼狽ぶりを見て、侑魔君は何故かニヤリと楽しそうに笑って見せた。
・・・嫌な予感がする。
「・・・構って欲しそうな顔でじーっと見てる位なら、声かければ良いのに」
「なっ!?そ、べ、別にっ!!そんな事は!!!」
「メッチャどもってねえ?・・・解り易いよな、アンタってほんと」
「うううう、何か・・・ちょ、不敵な笑みが怖いんですけど・・・」
何ていうか、黒い物がバックに見える。
笑顔がドス黒いというか、嫌な方向に楽しそう。
確実に私の状況というか、様子見て楽しんでるでしょこの人。
「ええ?何の事か解らないなぁ〜。あははっ」
「ちょ、誰だ此処に腹黒卑猥騎士つれてきた奴――!」
「あはは、ひっどいなあ、俺は健全且つ、ごくごく普通の騎士だぜ?」
何か魅艶君と侑魔君の間で変なやり取り始まった!!
つか魅艶君の拒否の仕方が凄いんですけど。
「シャ―!!!しゃ――っ!!!」
メッチャ威嚇してるんですけど。
ってか弁当食べないの?
まだ残ってるみたいなんだけど。
・・・今言っても聞いて貰えなさそう。
「ちょ、魅艶君獣化しないで!!」
「がるるるる・・・っ」
「魅艶君―?!怖かったねー?もう大丈夫だよー?此処にエ○スさんは居ないからねー?人間に戻ってー?魅艶君は人間だよー?!」
魅艶君の隣りに座っていた湊君がやや引き気味に叫び、威嚇する魅艶君をお兄ちゃんがおかしな方法で宥めている。
しかも侑魔君は何か大爆笑してるし。
「ってか二人共いつになくベタベタしてねえ?」
「何ー?お前ら恋人同士ですかーみたいな」
翔魔君と爾君の台詞に、思わず赤くなって固まった。
・・・ふ、二人共・・・鋭い(この時は頭回ってなくて二人の冗談だとか思ってませんでした:後日談)
「ん?・・・まぁ、間違っては居ないよな」
『!?』
全員が(私含む)目を見開いて、空気が凍った。
約一名、お茶を吹いた人が居たけど。
「ごはっ!?」
「おわっ!!ちょ魅艶――!!ペットボトルのお茶が霧状にぃいい!!!」
「ちょ、汚い!!!!」
「わあああごめん!!!ごほっごほっうぇっへい!!」
「ゆーるーさーぬー」
「っていうか早くハンカチでふきなよ」
何か大惨事だ向こう側が!!
お茶を吹いた魅艶君に多大な迷惑を被った時雨君と、その隣り・・・というか正面に座っていた優君の苦情。
「っていうかえ!?ちょ、侑魔君今のマジ!?」
「お兄ちゃん何っっっっっっっっにも聞いてないんだけど!!!!!」
「侑魔君!!!???そんなごごごごご誤解を招くようなこと!!!!!!!」
湊君とお兄ちゃん、そして私から詰め寄られた侑魔君は何故かきょとんとして、それから何かを思い出すように、視線を斜め上にスライドさせた。
「・・・いや、誤解も何も・・・一応俺らする事したじゃん。確か」
『!!!!!!!!!!!!!!!???????????』
更なる衝撃が、辺りを襲った。
え、私達前回告白とキキキキキキキキキキスしかしてませんよね!?
いや侑魔君の基準ではアレも『する事』に入るのかも知れないし・・・私達そんなまだ学生だしそんなそんなそんな!!
クールになれクールになるんだ白亜――!!
っていうか待て!!この状況はまずい!!と思った瞬間、肩にガシッと置かれた手。
お兄ちゃんが『娘が結婚相手を何の前触れもなしに連れてきた』みたいな顔をしていた。
怖いって!!!!
「白亜――――!!!!おおおおおおお前お兄ちゃんに内緒でそんなぁあああ!!!」
「いつか女の子ってのはお父さんから離れていくもんですぜ、橙さん」
「俺はお父さんじゃねえし!!」
何だかお兄ちゃんと爾君の会話はいつも素晴らしいな、とか思っちゃう私。
コレも立派な現実逃避です自覚してます。
何なんですか昼時のこの穏やかな時間にこの騒動は。
「マジか!!!大人の階段登っちゃったか侑魔!!!」
「誰かお赤飯炊けぃ!!」
「げほっげほっ!!お茶が!!!変なところに!!!」
「どうでも良いけど魅艶君が大変な事に!!!」
「・・・最初は『告白』の事のつもりで言ったんだけど・・・。・・・・あー、超楽しい・・・」
「侑魔君ここぞとばかりに黒いよ!!」
何故か物凄く楽しそうに問いかける翔魔君と、それに便乗して騒ぐ時雨君。
その脇っちょで大惨事を繰り広げてる魅艶君と、その背中を摩る優君と湊君。
そして、それらを見て何故か凄く楽しそうな表情の(どうやら彼氏になったらしい)侑魔君。
まさか、こんな騒ぎが起こるなんて思わなかった・・・。
―あとがき
BGM@チャットモンチーの真夜中遊園地
超楽しかった・・・。朝思いついて書いたんだけど・・・何か魅艶君ごめんwwwwww
でも咽そうじゃない?魅艶君ってwww(爆
因みにコレ、前回までのドシリアスの反動です。