暫くの間、室内に、居心地の悪い沈黙が流れる。
状況を知ってしまった分、この間の教室でのものより一層重い沈黙が。
「私に・・・、出来る事は、ないの?」
暫く経って、ようやく絞り出した自分の声は、掠れて震えていた。
侑魔君は無言のまま私を見つめて、何を考えてるのか読み取れない表情。
まるで全部の感情を、表に出すまいとしているように。
「・・・、アンタだけしか解らない、言霊というのが存在する」
淡々と呟かれた聞きなれない台詞に、目を瞬かせる。
「言、霊?」
繰り返した言葉に、侑魔君はコクン、と小さく頷いた。
「それを、俺に伝えてくれれば良い」
「そしたら、侑魔君は・・・」
「その直前に魂を入れてる器の中に、霊力を溜めて二倍にして、封印の儀」
「・・・っ!!」
封印の儀。
それはつまり、侑魔君の魂が消えてしまう事を意味する。
深い絶望が胸中に広がっていく中、自分を保つ為に、膝の上で硬く拳を握った。
「俺の体は、他の鬼達に比べて弱く脆い。体の作り直しと転生が効かない分、魂の器だけはかなり丈夫に出来てるから・・・コレが出来るのは俺だけらしい」
「だからって!!」
訥々と語られた言葉に、思わず噛み付く。
だからと言って、どうして侑魔君が犠牲にならないといけないのか。
誰も犠牲にならない方法が、どうしてないのか。
この人たちはこんなにも強いのに。
泣くまいとする私を見て、侑魔君が悲しい位穏やかな表情を浮かべた。
一瞬頬に触れようとしていた手は途中で止まり、その代わりにポン、と頭の上に手が乗せられる。
「・・・・・・大丈夫。こういう役割だって知ってたし、心と記憶が一時的に消えるから、痛みも無い」
「違うの!!私が侑魔君にしてあげたい事は、そんな・・・っ!!死ぬ為の手助けが聞きたかったんじゃないの!」
もっと、侑魔君自身の為に何かをしてあげたいのに。
私に出来る事は、見つからない。
「・・・・・・・・少し、我侭になるかもしれない」
不意に、小さな声で。
色々な感情の込められた声で、侑魔君が切り出した。
「・・・」
無言のままで顔を上げたけれど、侑魔君の目元には前髪が掛かっていて、感情が伺えない。
それでも、侑魔君が『距離』を少しだけ縮めてくれた事は、直感的に解った。
「・・・・・・一度だけ、今・・・抱きしめても良いか」
縋るような言葉に、驚いた。
それから、頷く。
「・・・う、ん」
すると侑魔君は静かな動作で私を引き寄せて、抱きしめた。
「・・・なあ、白亜」
紡がれた侑魔君の声は、酷く弱々しかった。
本当にこの瞬間だけは、侑魔君の心が近くに感じられた。
「何?侑魔君」
胸の内を支配する切なさを感じながら、答える。
侑魔君の背中に、そっと手を回しながら。
「・・・・・・好きだ」
不意に。
零れ落ちた告白。
「っ!?」
静か過ぎる告白に、身体が跳ねた。
小さすぎて、この距離ではなければ聞き取れないような、懺悔のような声だった。
「・・・言うつもり、なかったのにな・・・。・・・忘れていいから、コレ」
「何、で」
「重荷にしかならない。こんなのは」
抱きしめられてるから、顔まではわからない。
けど、侑魔君が今、コレを境に『決心』をしようとしてる事は何となく解る。
私は、死ぬ決心なんて、して欲しくない。
胸の内で、感情が爆発した。
「――っ!!私、だって・・・!私だって侑魔君が好きだよ!ずっと、ずっと好きなんだよ!?」
侑魔君の胸を叩きながら、叫んだ。
「・・・白亜」
「それなのに何で、何でいなくなっちゃうの!?」
「・・・ごめん」
私なんかの、それもあまり力の入っていないそれでも、侑魔君は凄く痛そうな顔をした。
ギュッと私の頭を抱えて、抱きしめる。
「両思いだって解ったのに、何で・・・っ!!」
当て付けだと解っていても、止まらない。
理性が打ち勝つには、押さえ込むべき感情が大きすぎた。
「中途半端で、ごめんな・・・」
この人が悪い訳じゃないのは、解っている。
だけど、何かに当て付けないと、感情が止まれない。
「忘れられる訳、ないじゃない・・・」
「・・・」
最早侑魔君は、何も言わなかった。
黙って、私の言葉を受け止めている。
とても、痛そうに。
「う、ああ・・・うああああ!!!」
もう泣き叫ぶ事しか出来なくて、私はただ、侑魔君の胸に縋って、泣いた。
「・・・っ」
何か出来るかも、と思った。
でも結局侑魔君を困らせて、自分の無力さを知っただけだった。
私に、何が出来るの?
―あとがき
思ったんだけど、誰か先輩とか後輩にしてみたらもっと面白かったのかなーと・・・。
あーでも全員同じクラスにしたかったっていうのも事実だし、なるべく現実に近い感じにしたかったんだよなー・・・。
このドシリアスな場面で言う台詞じゃないけどね。
シリアスになれば成る程、あとがきはテンション高くなっていく罠。
っていうかこの後・・・何処でギャグ入れよう(汗
こんなに苦々しい告白シーン書いたのぶっちゃけ初めてなんスケド(汗