「・・・どうしてこんな事に・・・」
歩きながら、私は呟いて溜息を吐いた。
事の発端は先日。
四神の封印も終わり、一息ついた次の日の学校でのことだ。
お兄ちゃんの一言に、私は思わず固まった。
そして、どや顔をしているお兄ちゃんの横でうんうんと頷いていたのは、爾君。
心なしか楽しそうだったのは気のせいかな・・・。
『二人共、折角くっ付いた上に平和になったんだから行って来るべきだよ』
そう言われて、私と侑魔君はお互いに顔を見合わせた。
・・・もっとも私の方は直ぐに気恥ずかしくなって視線を逸らしてしまったけど。
『・・・じゃ、そうする? 何れ誘うつもりだったけど』
『・・・うん』
クッと喉で笑った後に言われた台詞に、私は否定する事も出来ず頷いた。
ってか最近黒いような気がするのは気のせいでしょうか侑魔君。
そして、現在に至る訳だけど・・・。
待ち合わせ場所に行くまでの道のりでうだうだと考えながら私は人の家の車に映った自分の姿を見てみる。
別に盗難しようとしてる訳じゃないので、多少怪しくてもスルーしてあげて下さい近隣の皆様。
「・・・変じゃない・・・よね。優君と爾君にチョイスして貰ったんだし」
何故か二人して超ノリノリで私の服を選んでくれたんだけど・・・とにかく、二人のセンスを信じよう。
センスの良さに定評がある二人だし。
「・・・・・・ってかのんびりうだうだやってる場合じゃない!!!既に居るし侑魔君!!!!」
現在立っている道路から見える、本を読んでる最中らしい侑魔君の姿(私の視力は両目共に1.0)に、私は焦った。
時計を見てみると、既に待ち合わせ時間を五分程過ぎていた。
うあああああ、服装の事でうだうだやってる間に時間が過ぎてる!!!
取り敢えず私は全力ダッシュして、侑魔君の立っている場所まで駆けた。
「お、おはよう!」
「ん? おはよーさん」
(心の中では)人類も吃驚なスピードで走り現れた私に、侑魔君はサラッと返してくれた。
ってか本分厚っ!!
それ待ち合わせの時に読むような代物じゃないでしょ、腕疲れるよ!?
内心で色々と突っ込みを入れつつ、私はやや息切れの状態のままで侑魔君を上目遣いに見上げる。
「うん、あの・・・待った・・・よね」
「ふはは。んな大して待ってないし。気にしないで」
「・・・ごめんね?」
いつものように笑って本をしまった侑魔君に、取り敢えず謝る。
楽しみすぎて寝れなかった為寝坊した挙句準備に手間取り服のコーディネートにうろうろし・・・多分トータルすると三時間位経ってるね。
「良いから良いから。ってか俺は過去最高記録で三時間待った事があるから。五分なんて待った内に入らない」
「三時間・・・」
待たせる方も待たせる方だけど、待つ方も凄い気がする。
「そいつは因みに毎回最低でも一時間は遅れてくる馬鹿だからな」
「あ、あの・・・?」
「つーか時にはドタキャンとかやらかすし。疲れたからとかふざけてんのかよあの××××・・・ちっ、思い出したらムカついてきた」
「ゆ、侑魔君?」
段々空気が怪しくなって来たので、取り敢えず呼びかけてみると侑魔君はハタと我に返ったのか、黒い靄が急に消えた。
・・・何かあのまま放置しといたら何か召還しかねない勢いだったんですけど。
恥ずかしそうに頬を掻いて照れ笑いする仕草とのギャップが。
「・・・悪い。つい口調が中学の頃に・・・」
ちょっと目が怖かった気がします。
そういえば戦闘中もたまにあんな感じになってたけど。
一体全体中学時代の侑魔君って。
「・・・私もなるべく遅刻はしないようにしなきゃ・・・」
溜息を吐いて呟くと、侑魔君は目を瞬かせて首を傾げた。
「・・・別に、俺は好きな奴になら多少待たされたって腹は立たねえよ?」
「〜〜〜っ!」
いつも意図的に遅刻する奴とは違うだろ?とからかうように笑みを向けてきた侑魔君に、心臓が大きく高鳴った。
その笑顔とミックスして好きとかさりげなく会話に紛れ込ませないで、心臓持たない!!
デート序盤にして心臓弾け飛んでスプラッタさらす羽目になっちゃうよ!?
そんな事を考えてパニクってる私を余所に、侑魔君は私を何故かまじまじと見つめた後、ニッと笑った。
「・・・今日の格好、すげえ可愛いね」
「っ!!」
「・・・どうした?」
「な・・・っんでも、ない・・・」
低い声で問いかけられてちょっと足元グラッと来たとか言ったら確実にこの後イジられそうな気がするので、敢えて何も言いません。
そんな地味な抵抗をしている私を見て侑魔君はクツクツと楽しそうに喉で笑っている。
「・・・本当、可愛いよな」
「しみじみと・・・言わないでよ・・・」
目を細めてしみじみ言われると本当に死にそうになるんだけど。
「本当の事じゃん?白亜が可愛いのは」
「うー・・・お世辞言ったって何もないよ?」
「お世辞じゃねえよ」
そんな会話をしながら、私達は目的の映画館へ向けて歩みを進める。
「ねえ侑魔君」
「ん?」
「・・・こうして一緒に歩けるなんて、夢みたいだね」
そう言って笑った自分の声は、これ以上ないって位穏やかなものだった。
本当に、あの時はただ滅茶苦茶に我武者羅に動いてただけだし。
自分が閻魔だって知った後も、そうだ。
私はただ、侑魔君を死なせたくないって理由で、動いていた。
「まあ・・・前の俺じゃ考え付かなかった状況だな」
「うん・・・」
侑魔君は一度小さく笑って、空を見上げた。
一陣の風が侑魔君の髪を撫で、侑魔君は穏やかな表情のままで―――
「お陰でアリハトの新作も出来るし」
サラッと予想斜め上の答えを返してきた。
私は思わずこけそうになってしまい、侑魔君に支えられる羽目になった。
「喜ぶべき所はそっちなのぉおお!?」
「え?」
「そんなキョトンとしないでよ! ・・・もう・・・」
一人でロマンチックなムードに浸ってた私が馬鹿みたいじゃない・・・。
ぶすくれている私に、侑魔君は隣で苦笑した。
「ははは、冗談だって。半分位」
半分って。
もう半分は本気なんですか。
それともそれすら冗談なんですか。
未だにそこら辺が計りきれないよこの人・・・。
「もう・・・。 ・・・でも、コレで遠慮なく恋人らしいこと出来るね!」
「・・・そうだな。 ・・・若干恥ずかしいけどさ」
「うん・・・」
何とか立ち直って笑顔を浮かべ、侑魔君の手を握り締める。
頬を掻いて照れ臭そうにしている侑魔君は、いつぞや放課後の教室で私が泣きついてしまった時と同じような表情をしていた。
でもその反応をしたくなる気持ちも物凄く解る。
青臭いと思われるかも知れないけど、コレが私達の等身大だ。
背伸びする必要もない。
「・・・取り敢えず・・・、白亜」
「うん?」
声のトーンが少し変わったので疑問符を浮かべて侑魔君を見上げると、穏やかに細められた金色の瞳と視線が交差した。
その輝きに見とれてる内に、侑魔君に抱き寄せられて、額に唇が触れた。
「・・・有難うな。諦めさせないでくれて」
その言葉に、胸の内が暖かくなる。
少し嬉しすぎて泣きそうになってしまったけど。
「私も、アリガト。信じてくれて」
出来るだけの笑顔を浮かべて返すと、侑魔君はまた視線を逸らして「あー…クソ、やばい」とか何とか呟いた。
・・・?
何?と聞こうとした瞬間、抱き締める腕の力が強くなった。
そして、唇に暖かい感触。
「・・・っ」
「・・・ん」
目を瞑って暫く侑魔君に身を任せていた私は、解放された時には若干息が上がっていた。
その様子を侑魔君に苦笑されてしまったものの、仕方ないと思う。
っていうか不意打ちすぎるんですが。
一瞬息できなくなったよ。
「・・・・・・じゃ、行こうか。映画、始まるし」
「う、うん・・・」
照れ臭そうに笑って、侑魔君は私の腕を改めて掴み、手を引いてくれた。
ずっずっと、こんな風に歩いていきたいな。
この人と一緒に・・・、日常の中、どんな時も、いつまでも。