「という訳で!!!お前ら今日はカラオケだぜ!!存分に騒ぐぞ!!」
 
賑やかなカラオケボックスの中、何も流していない部屋の中に翔魔君の声が響く。
 
取り敢えず十人で一部屋取ったんだけど、流石に大部屋だけあって、まだ余裕もある。
 
いやあ、何と言うか・・・これだとちょっとした宴会場だよね・・・ノリがさ。
 
そうでなくてもいつも騒いでるようなものだけどな
 
「え〜そんな事ないしぃー。いつもはー、ちゃんと加減してるよー」
 
「「あれで?」」
 
侑魔君のぼやきに対してちゃっかりと反応した翔魔君の台詞に、魅艶君と湊君もハモる。
 
・・・こんな時だと余計に思うけど、この人達のコンビネーションって無駄に凄い時があるよね。
 
っていうかやばい、翔魔君が物凄く不穏な空気を出していらっしゃる。
 
「え、ええと・・・あの、一応お兄さんも居るって事は、大事な話でも?」
 
慌てて話の進行方向をそらすと、部屋の奥に座って話しの成り行きを見守っていたお兄さんが、にっこりと笑った。
 
「流石に鋭いねー、白亜ちゃん。そして話を進めるのが大いにスムーズで助かるよ」
 
そう思うなら止めて下さいよ、と思わないでもないけど。
 
口に出すと怖いので、黙っときます
 
「この面子だといつも話が逸れて逸れて逸れて逸れまくるからな・・・。な、湊」
 
「・・・だね」
 
侑魔君と湊君が溜息を吐いて苦笑する。
 
・・・確かに見てるとそんな感じだよね、いつも。
 
「じゃあ、話の間は取り合えず男子十四楽奏でも流しておこうか」
 
入ってるの!?
 
男子十四楽奏って、歌も何も入ってない、演奏だけのグループだったような・・・。
 
いや、あれはあれで音色が凄く綺麗だから好きだけど・・・。
 
何でカラオケに入ってるの
 
入ってるんだなーこれが
 
「僕も最初に見た時は驚き通り越して笑っちゃったよ」
 
誰が得するんだろう、これ・・・
 
「さあ?」
 
「・・・」
 
上から順にお兄ちゃん、翔魔君、爾君、優君の順。
 
そして最終的に言う言葉が見つからず、沈黙する私。
 
いや、この状況で何を言えと
 
「取り合えず話を先に進めるよ。・・・皆、最近の妖怪の暴走っぷりは知ってるよな?倒してる張本人だし」
 
何処までもマイペースに話を進めたお兄さんに、全員がコクンと軽く頷いて見せた。
 
中には反応を見せず考え込んでいる人も居たけど。
 
「あー・・・最近やばい位に暴走の回数が増えてるよね。校内に関わらず、街中でもわんさか出てるよ」
 
お兄ちゃんがぼやくようにして溜息を吐く。
 
・・・そういえば最近お兄ちゃんのかすり傷が目立つようになってきたのって・・・それが原因なのかな・・・。
 
考えながら、私も話を聞き逃すまいと意識をそっち向ける。
 
・・・私も無関係者って訳じゃないしね。
 
「何かそろそろやばいよね。何であんなに出るのか・・・」
 
時雨君も携帯から顔を上げて、呟いた。
 
その横で頼んだジュースを飲みながら魅艶君も難しい顔をしている。
 
「原因はさておき、取り合えず街中での暴走については対策考えないとそろそろ問題じゃないかな?」
 
「その通り。だから取り合えず、夜中の見回りのグループを決めようかと思う。」
 
魅艶君の台詞をお兄さんがあくまで笑顔のまま肯定して、一さし指を立てた。
 
全員が難しい表情になっている。
 
「でもほら、・・・今までも一応夜中の暴走にも対処は出来てなかった?」
 
爾君の台詞に、お兄さんは苦笑して手をヒラヒラと振ってみせる。
 
「んー、だってほら。今までのやり方だと、サボリが出たり、気が向くまで出勤しない人がいたりするじゃない?」
 
居たんだ、そんな人達
 
でも該当者が居るとしたら、誰なのかは解る気がする・・・。
 
本当だよなー!ったくさー、街の平和の為、自ら動かないとさー」
 
お前が言うなサボリの常習犯!
 
翔魔君の台詞に、即座に湊君がツッコミを入れた。
 
・・・ナイス突っ込み。
 
違うし!!人聞き悪いこと言うなし!!サボリの常習犯は青埜だろ!?」
 
「NO!!青埜はちゃんと現場まで行っている!!」
 
現場まで行って即エスケープしてるけどな
 
それ・・・意味ないんじゃないかな・・・
 
ないねー
 
翔魔君と青埜君のやり取りに思わずツッコんでしまった私の台詞に、魅艶君もへらへらと同意した。
 
・・・でも普通に想像できるな、その図が。
 
「とにかく、グループを決めて見回りをして欲しいんだが、どうだろうか」
 
最終的に決を取ったお兄さんの声に、全員は顔を見合わせた。
 
それから各々は表情を引き締めて、
 
『異議なし』
 
と声を揃えた。
 
その様子を見回して、お兄さんはにこっと笑顔になった。
 
「ん。じゃ、グループ決めに関してはバランス良くする事を重視してくれよ。・・・あとは頼んだ、翔魔」
 
「はいはーい。んじゃ、今からグループ決めするか。橙ー、次は上司十六楽曲流してー」
 
「これもあるんだ・・・」
 
・・・BGM要員の曲入れすぎじゃない?
 
っていうかこの二つは何かあんまり違いが解らないんですけど・・・。
 
「その間に、侑魔君はちょっと来て。話があるから」
 
「?・・・はあ」
 
不意にそんな会話が耳に入って、私はそちらに視線を向ける。
 
丁度、部屋から二人で出て行く侑魔君とお兄さんの姿が視界に入り、首をかしげた。
 
(・・・どうしたんだろう?)
 
あの二人って・・・確かあんまり接点も無かった筈なんだけど・・・。
 
            ☆☆☆
 
数十分程して、皆の役割が決まった頃・・・侑魔君とお兄さんが部屋に帰ってきた。
 
因みに今は、お兄ちゃんが『持って来い!!セーラー服☆』を歌っている真っ最中。
 
って言うか何故そんなに上手いの、お兄ちゃん。
 
曲のチョイスがチョイスだけに素直に関心出来ないんですけど。
 
「おかえり二人とも」
 
「ただいまー」
 
「・・・」
 
軽く返事を返してくれたお兄さんとは裏腹に、侑魔君は何処か疲れたように溜息を吐いた。
 
・・・心なしか、顔色も悪い。
 
今にも吐血しそう・・・というのは冗談として。
 
「・・・どうかしたの?侑魔君」
 
問いかけると、侑魔君は私の隣に座って、視線を此方に向けてきた。
 
「ん?・・・いや。別に。・・・何でもない」
 
二回も否定した割には、何でもない顔色じゃない。
 
真っ青というか・・・、とにかく健康な顔色じゃない事は確か。
 
「・・・顔色悪くない?」
 
オブラートに包んで質問型にはしたけど・・・聞くまでも無く悪い。
 
「・・・平気だ。・・・俺の顔色が悪いのは日常茶飯事だろ」
 
「でも」
 
今回のはそんなレベルじゃない、といいかけた所で、お兄ちゃんの歌っていた曲が終わったらしい。
 
一瞬意識をそっちに向けた瞬間、侑魔君は私の頭をさっと撫でて、隣から移動して行った。
 
「侑魔ー!一緒にロリ誘拐歌おうぜ!!」
 
「おー、歌おう歌おうー」
 
翔魔君の誘いにいつものようなノリで応じて、マイクを受け取る侑魔君に、私はどこか不安を覚えた。
 
・・・確かにいつもと変わらないけど、何と言うか・・・嫌な胸騒ぎがする。
 
(・・・どうしたんだろう)
 
・・・今度、二人になった時にでも聞いてみよう。
 
 
 
 
―あとがき
 
ナチュラルにロリ誘拐だけそのままな件について(爆