現時刻は夕方の6:00頃なり。
 
辺りは真っ暗・・・とまでは行かないけど、明かりは少なく、ほの暗い道。
 
そんな場所を、私はコンビニのビニール袋引っさげて歩いていた。
 
(えーと・・・買わなきゃいけないものはちゃんと買った筈・・・)
 
多分だけど。
 
買い忘れてたらお兄ちゃんに走ってもらおうっと
 
だって私二度手間嫌だし。
 
(うーん・・・お兄ちゃん連れてくれば良かったなー・・・)
 
小さく溜息を吐いて、暗くなり始めた空を見上げる。
 
(・・・でもお兄ちゃんは今頃部活終わった位だろうし・・・)
 
っていうか多分今正に学校出た頃なんじゃないかな・・・知らないけど。
 
あーもう、夕飯作りもっと遅く始めればよかった・・・。
 
作り始めて数分で材料が足りない事に気付くなんて・・・!!!!
 
私の馬鹿!!
 
しかも家出る前にホラー番組ちょろっと見ちゃったし。
 
・・・途中で鍋の吹き零れに気付いて、そこで材料チェックして、材料の不足に気付いた私ってどんだけ馬鹿なの。
 
「ふぅ・・・」
 
もういっちょ溜息を吐いて、家まで向かう。
 
此処から家までだと、約10分位かな。
 
因みに学校からだと計算して約30分掛かります。
 
これでも高校だったら近い方だけどね。
 
「・・・?」
 
呑気な考え事をしていた私は、それ故今の今まで気付かなかった。
 
(足、音・・・?)
 
・・・心なしか、少し引きずり気味の、何人か分の足音。
 
それから、気配。
 
(・・・こっちに、向かってる?)
 
その時、不意に仏滅と暴走の事が頭に浮かんだ。
 
妖怪、暴走、という単語が頭の中をチラつく。
 
(気のせい・・・だよね)
 
ロボットのようにギギギ・・・と音がしそうな様子で振り返る。
 
そこに居たのは――――・・・、
 
「――――――」
 
とてもじゃないけど、正常な顔つきをしていない人達の集団。
 
顔つきだけじゃない。
 
体も、とてもじゃないけど人間じゃない。
 
ゾンビだ。
 
R18だ。
 
スプラッタだ。
 
「肉・・・ニ・・・ク」
 
「っ!!!」
 
べとべとした粘液を垂らしながら、そいつ等は私の方へ歩いてきた。
 
慌てて逃げようと踵を返した瞬間、あっという間に回り込まれて、肩を掴まれる。
 
「がぁああ!!」
 
間近で牙をむかれて、鳥肌が経った。
 
気持ち悪い。
 
気持ち悪い!!
 
「嫌っ!!!!!離して!!!!!!!!」
 
バタバタと必死に抵抗するものの、凄まじい力で抑え込まれて、全く歯が立たない。
 
肩に食い込んだ手の痛みと、間近に迫った死の恐怖に、体が震える。
 
私は、まだ死にたくない。
 
「閻魔・・・モウ・・・スぐ・・・転、生」
 
「美味、ソ」
 
「あ゛ぁああ・・・」
 
「力ぁ・・・」
 
途切れ途切れの言葉と共に、他のゾンビも此方に近寄ってくる。
 
最早妖怪とも呼べない。
 
(言ってる意味が解らない・・・っ)
 
がちがちと歯が音を立てて震え、全身の血の気が引いた。
 
殺される。
 
そう思ったら、冷静じゃいられなくなった。
 
「助けて!!!誰か!!!!!!!!!!」
 
死に物狂いで、周囲に叫ぶ。
 
誰でもいいから、助けて。
 
脳内に浮かぶバカレンの皆に向かって、助けを求める。
 
次の瞬間、近くの木が音を立てて揺れた。
 
私とゾンビの意識は、其方に向かう。
 
そこから現れたのは――・・・、
 
死に曝せ!!F**K!!!!!!!!
 
紺色の髪を持つ、小柄な少年。
 
つまる所、侑魔君だった。
 
「ぐげぇっ!!」
 
恐ろしい身軽さでゾンビを蹴り飛ばした侑魔君を見て、足から力が抜ける。
 
木の上から降りてくるとかどんなシチュエーションですか、とか聞く前に、安心感の方が先に来た私は、かなり切羽詰っていたんだと思う。
 
「侑魔・・・君」
 
「怪我は!」
 
焦ったように聞かれて、慌てて首を横に振る。
 
私の周りに屯(たむろ)していた妖怪達も、いつの間にかその体に合わない俊敏さで侑魔君と私から距離を取っている。
 
「してない・・・」
 
私の返答に、侑魔君とホッとしたように溜息を吐いた。
 
・・・また溜息。
 
幸せ逃げるよ?なんて軽口も、今は飛び出して来ない。
 
よっぽど私は怖がっていたらしい。
 
「なら良かった・・・。・・・気分は最悪だろうが、ちょっと待っててくれ」
 
「うん・・・」
 
優しく言って、あやすように、頭を軽くポンポンと二回叩かれた。
 
それから、侑魔君は妖怪達の方に向かってニィ・・・と凄惨な笑みを浮かべた。
 
・・・何か、私はどうやら侑魔君の大事な線を二、三本叩き切る原因になったらしい。
 
「・・・汚ぇ粘液塗れの手で触りやがって・・・」
 
ゴキッ
 
侑魔君の拳が鳴る。
 
それすらも殺気を含んでいるように感じて、私は身を縮ませた。
 
「ぐるるるるる」
 
唸りながら侑魔君を警戒する妖怪を目の前にして、彼は地面を蹴った。
 
瞬間的に、凄まじい瞬発力で持って妖怪の間合いにあっさりと入り込む。
 
「手前等、百回位死んで来るかァ?」
 
爽やかな笑顔が怖いです、侑魔君。
 
言いながら、侑魔君は妖怪の顔と胴体の間・・・つまる所首に、強烈な回し蹴りを放った。
 
「がっ!?」
 
妖怪の首が嫌な方向に折れる。
 
・・・うえー・・・スプラッタ・・・。
 
って訳でとっとと逝けや××××!!
 
「ぎゃん!!」
 
死に曝せ!!とっとと地獄に帰り腐れ××××××××野朗共!
 
(・・・あれは、でしょうか・・・)
 
あの、放送禁止用語言いながら妖怪達の骨を叩き折りまくってる人は一体。
 
っていうか、ナイフ使わないのはアレ?少しでも痛めつけてから分解しましょうか〜って事?
 
その予想がどんぴしゃだったのか、侑魔君は仕上げとばかりにジャキッと爪を伸ばした。
 
クックック・・・じゃあ、あばよ
 
キャラちげえ
 
超悪人面だよ。
 
寧ろもう殺し屋とかマフィアの領域に片足突っ込んでるよ。
 
(何かもう、普段の面影が全くないんですけど・・・)
 
そうしている間に、侑魔君はとっとと妖怪達の首を落とし、爪を元に戻した。
 
私に気を使ってくれたのか、私が瞬きした時には、既に妖怪が黒い靄になって消える所だった。
 
「・・・ふぅ」
 
いつものようにかったるそうに溜息を吐いて、私に金色の瞳を向けてくる。
 
「あの、侑・・・魔君?」
 
恐る恐る声を掛けると、やんわりと私に安心させるような笑みを向けてきた。
 
・・・良かった。
 
いつもの侑魔君だ。
 
「・・・ああ、多分もうこっち来ても平気だぞ」
 
「うん・・・わっと!?」
 
頷いて、駆け寄ろうとした瞬間、足からガクリと力が抜けた。
 
それを、慌てたように侑魔君が支える。
 
「っとと・・・。・・・大丈夫・・・な訳ないか」
 
「・・・」
 
無言で侑魔君を見上げると、困ったように眉根が寄せられた。
 
「ごめんな。駆けつけるのが遅くなった上、俺みたいな使えない奴で」
 
「そんな・・・!」
 
使えなくない。
 
そう反論しようとしたけど、喉に何かが引っ掛かって咽てしまった。
 
「他の奴なら、もっと早く助けられたのにな・・・」
 
私の背中をトントンと叩きながら、侑魔君が苦笑染みた声を出した。
 
ただ、その表情は凹んでるのが一目瞭然の物。
 
「充分早かったよ・・・。現に私、怪我とか何もしてないし・・・」
 
「・・・でも、怖い思いしただろ」
 
「・・・っ」
 
否定は出来ない。
 
息を呑んだ私に、侑魔君は小さく、申し訳なさそうに笑った。
 
「・・・ごめん」
 
震える私を、気遣ってくれる優しい手に、甘えてしまう。
 
「良いの。確かに怖かったけど、・・・侑魔君が来てくれて、嬉しかったから・・・」
 
(あんなに怒ってくれて)
 
少し怖かったけど。
 
私の為に怒ってくれたのが、嬉しい。
 
「・・・そう言って貰えると、俺も救われるよ」
 
そう言いながら、侑魔君はちょっとだけ笑った。
 
「うん・・・」
 
「ってか、かなり耳に悪い暴言はいちまったな・・・」
 
「あー・・・」
 
「頭に血が上ってたから、つい
 
(・・・あれ、「つい」で飛び出した台詞だったんだ・・・)
 
ついにしては、かなり普通に喋ってた気がするけど。
 
先刻の表情と今の人格が一致しません。
 
 
 
―あとがき
 
戦闘シーンは格好良くが日奈月の目標なので、恐らくここら辺は全員特に力が入るポイント。
寧ろね、侑魔の表現で使われるマフィア→某帽子屋方面
これから先恐らく翔魔君で使われるマフィア→ルッキィイイイリノとかそっち方面(内容よく解らんから大いに偏見になる可能性有り
そんな感じさー。
っていうか取り敢えずF**Kって伏字にしといたけど解るべよ。因みに翔魔君が使う悪態は大体イタリア語にしとくから宜しくネ☆
っていうか侑魔君伏字で喋りすぎな件。実は作者かなり楽しく書いてました(あは