朝、職員室から教室に戻ると、バカレンが全員集結していた。
 
魅艶君も、勿論居る。
 
・・・どうやら英語の小テストがあるのに勉強してくるのを忘れたらしい。
 
「・・・ふう」
 
席について、置きっぱなしだった鞄を机の横に下げて、小さく溜息を吐く。
 
・・・昨日は結局、夢にまで侑魔君とのあの出来事を見てしまい、寝れなかった。
 
だって、考えたら異性に抱きついちゃったのってアレが初めてで・・・。
 
夜中に゛のあ―――!!!!!゛とか叫びながら枕バッフンバフンやったからお兄ちゃんが血相変えて駆けつけてきたんだよね。
 
・・・かなり迷惑だな、私。
 
「・・・あ、侑魔君」
 
「・・・あー・・・おはよ」
 
おずおずと声を掛けると、今日も今日とて優君と喋っていたらしい侑魔君が、チラリと此方に視線を向けた。
 
相変わらず表情が変わらない・・・。
 
・・・っていうか、昨日の赤面した顔は意外だった・・・。
 
あと、細身なのに意外と胸板がしっかりしてて―――って私の破廉恥ぃぃいいいい!!
 
「・・・昨日は、有難う」
 
脳内絶賛大暴走中なのを何とか押さえながら、控え目にお礼を言うと、侑魔君は、「気にしなくていいよ」とサラッと言ってくれた。
 
「あれね、凄く嬉しかったよ」
 
侑魔君の御蔭で睡眠時間は消えたが、それでもあの不安感は消えてしまった。
 
・・・だからコレは、私の嘘偽りのない気持ちだった。
 
「・・・・・・なら良かった」
 
その一瞬だけ、侑魔君は私を見て、やんわりと微笑んでくれた気がした。
 
・・・顔に熱が!!熱がぁぁ!!
 
ちょ、どうしよう!!今の私絶対軽く38.5分はある!!!
 
そんな、庭に止まった小鳥を見るような優しい目で見ないでぇぇえええ!!
 
「あの、これからもちょくちょくあんな感じで、一緒に帰ってくれると・・・嬉しいんだけど」
 
そう言うと、侑魔君は一瞬驚いたように目を瞬かせてから、苦笑した。
 
「・・・俺なんかで役に立てるなら」
 
「うん、役に立ったよ。凄く」
 
「・・・・・・そう」
 
「うん」
 
相槌が帰ってくるのに少し間があったものの、侑魔君の笑みは凄く優しい物だった。
 
・・・あれ、侑魔君デレてくれてる!?
 
ほんわかとした空間に二人居た私達を現実に戻したのは―――・・・
 
「存分に使ってやりなよ。コイツができる事ってほとんど無いから
 
という翔魔君の一言。
 
侑魔君の額に軽い青筋が見えるんですけども。
 
「・・・本当の事だが他人に言われるとムカつくんだが」
 
「ごめんねぇ〜僕って正直だからぁ〜」
 
え、翔魔のそれは正直とは違うでしょ
 
うわ、魅艶君、言ってはいけない事を・・・!!
 
「・・・」
 
「うわっ、やべっ!!
 
次の瞬間、がたがたがたっと椅子を鳴らして無言で立ち上がった翔魔君の姿を見て、魅艶君も席を立つ。
 
・・・また追いかけっこしてるよ・・・。
 
「あ、時雨と優君。廊下で先生が叫んでたよ」
 
追いかけっこ開始とほぼ同タイミングで教室へ戻ってきた湊君が、教室内でボーっとしていた時雨君と、絵を描いていた優君に声を掛ける。
 
「え、何で?」
 
「さあ・・・」
 
「え。果たし状とか渡されたらどうしよう!」
 
二人いっぺんにはないべ
 
時雨君の発言に対して、いつの間にか読書に戻ってしまった侑魔君が投げやりにツッコミを入れる。
 
・・・それでもツッコミを入れるのは止めないんだね・・・。
 
「部活の事じゃない〜?」
 
「あー・・・そっちか」
 
「「どっちだと思ったんだ」」
 
優君の発言に対してボソリと呟いた時雨君に、湊君、侑魔君からのWツッコミ。
 
・・・幾ら何でも果たし状はないでしょ・・・時雨君。
 
うわっうわっうわっ!!
 
一方教室内部では・・・魅艶君vs翔魔君の追いかけっこが白熱していた。
 
こらぁ!!壁際の提出物が剥れて飛んでいくから走らないの!!」
 
お母さん!?
 
お兄ちゃんの発言に対して爾君がツッコミ(?)のような物を入れる。
 
確かに今の発言はお母さんっぽいよ、お兄ちゃん。
 
「・・・あ、そうだ、侑魔君」
 
「・・・あん?」
 
読んでいた本から視線を上げて私を見上げてくる侑魔君に、コレだけは言わなくては・・・と思っていた言葉を言う。
 
「昨日・・・あんな事しちゃってごめんね・・・」
 
された方は本当に吃驚しただろうに、文句も言わないで、私の言葉をちゃんと聞いていてくれた・・・。
 
それが嬉しい。
 
「・・・・・・」
 
「あの時私、パニックになってて・・・」
 
「・・・分かってるよ」
 
「?」
 
もぞもぞと言い募る私に、侑魔君は小さく溜息を吐いた。
 
それから、ガタリと席を立つ。
 
そして、通り過ぎ際に私の頭を軽く撫でた。
 
「・・・言っただろ。俺なんかで役に立てることならって。気にするなよ」
 
「・・・・・・有、難う」
 
答える代わりにもう一度髪の毛をクシャリと撫でられた。
 
・・・触れられた所が熱い。
 
・・・・・・再三言ってるけど、コレ何て恋シュミ・・・