「あれ?今日は侑魔君一人?」
放課後の外掃除から帰ってくると、教室に残っていたのは侑魔君一人。
毎度の事ながら撤収の早いうちのクラスの様子にも、好い加減慣れました。
私の表情を少し眠たそうに見上げて、侑魔君はクロスワードの雑誌を閉じてカバンに仕舞いこんだ。
「あー・・・、悪いな。優君は今日見回り担当なんだ・・・。俺で我慢せえ」
「いや、我慢とかそういうのじゃなくて、どうしたのかな・・・と思っただけなんだけど」
「クク、『ちょっと残念』って顔に書いてあるけどな」
「え゛!?」
意地悪く笑った侑魔君に思わず狼狽してしまった。
というか、行き成り何か方言っぽい喋り方が出てるのは何故・・・?
っていうか侑魔君、何処の人なんだろう。
逃避がてらややどうでも良い事を考える私を暫く無言で見てから、侑魔君は再び笑った。
「ホラ、早く行くぜよ」
「ああ、待って待って!」
私の鞄を担いで、さっさと歩いていってしまった侑魔君を、慌てて追いかける。
☆☆☆
「・・・にしても、本当この間は吃驚したよ・・・」
何とか追いついたものの、鞄は持たれたまま・・・多分気を遣って持ってくれてるんだけど・・・私そんなにか弱い子ではないんだけど・・・。
取り敢えず、箸より重いものも一通り持った事あるし。
「ああ、急に登下校一緒に〜って話が出た事な。・・・アレは優君の提案だ」
「そうなんだ?」
優君が・・・、と口の中で呟いてから、先刻の事を思い出してしまい、顔が若干赤くなった。
べっ、別に残念なんて、思ってないんだからねっ!!
・・・・・・誰に対してツンデレたんだろう、私。
っていうかそれにしても、私と登下校する目的がわからない・・・。
(・・・?どうしてだろう。・・・私ってそんなに危なっかしい?)
疑問符を浮かべながら考え込む。
・・・まあ、多少見てて危ないかもしれない、というのはキチンと自覚しているつもりなんだけど。
そりゃあ、バカレンの皆と比べたら・・・ねえ?
「・・・・・・どうしてだろう、って・・・確かに危なっかしいのもあるし・・・」
「え!?」
何故私の考え事の内容を知って・・・!?
侑魔君エスパー!?
そう思い侑魔君をまじまじ見ていると、侑魔君は侑魔君で私の方を見て、小さく溜息を吐いた。
挙句、でこピン。
「・・・考え事なら口に出すなよ・・・」
「〜〜〜!口に出してるなんて気付かなかったんだもん!」
痛くなかったけど、でこピンされた場所を摩りながら一応主張。
自分の考え事が外に駄々漏れているなんて全くと言って良いほど気付かなかった・・・。
「・・・・・・で、続けるけど。・・・本当に解らん?」
私の様子を暫く呆れたように見つめていた侑魔君は、直ぐに諦めたように首を軽く振り(何か凹むな・・・この動作されると)、聞き直した。
まあ、色々と追求したい事はあるけどさておいて・・・、侑魔君の質問を、今度は真剣に考える。
「んー・・・」
わ か ら ん 。
危なっかしい以外に何かあるのか。
いや私そんなにうっかりさんじゃ・・・・・・・・・・・・・・・ない筈なんだけどなあ・・・。
やばい、頭の上から煙が出てきた。
「・・・・・・・・・・・・・・あー・・・鈍いなー・・・何で俺この子に嫉妬してんだろ・・・」
「?」
「いや。・・・此処最近は優君ずっとアンタを気にかけてるんだ。コレもその行動の延長線」
侑魔君の言った台詞が聞こえなくて首を傾げると、何故か疲れたような顔をされた。
・・・何か最近侑魔君この表情と溜息が多いなー・・・。
ん?もしかして原因は私か!?
「此処最近、妖怪共の動きが活発化してる傾向にある。現に、こうやって・・・」
ガシャン!!!
「!?」
侑魔君が話している最中にふと上を指差したかと思うと、何故か上からフェンスが落下してきた。
どうやらマンションの屋上から降って来たものらしいが、次の瞬間降って来たもっと大きな物の所為で、それを考える余裕はなかった。
今までの記憶と経験から判断して反射的に後ろに下がって尻餅をついた、その瞬間、上から妖怪が計三匹程落下してきた。
侑魔君が一瞬だけ私を見てから、直ぐにそいつらの方に視線を向ける。
次の瞬間、侑魔君の爪が伸びて、妖怪を切り裂く。
仮にも人型をしているものの首と腕が吹っ飛ぶのを間近で見るのはグロかったものの、吐いてる場合じゃないのは解る。
次の瞬間、侑魔君は肉片になった妖怪に見向きもせず、残りの二体殲滅に走る。
一匹の顔面に裏拳を叩き込み、回し蹴りで吹き飛ばす。
そこにまた飛び込んできた残りの一匹の顎を力いっぱい蹴り上げ、何だか肉のへし折れる音をさせて沈ませた。
「ぎゃん!?」
何か犬みたいな悲しい声を出して、妖怪は黒い靄に包まれて消えた。
「ラリッて暴走してる馬鹿を見かける回数も増えてるだろ?・・・ったく手間かけさせんじゃねえ阿呆、沈んでろっての」
「う、うん・・・」
ケッと面倒臭そうに言って、私に手を伸ばし、侑魔君はキチンと私を立たせてくれた。
幸いにして、通行人がほとんど居ない場所だったので、目撃はされていないらしい。
寧ろ侑魔君・・・早業すぎる。
若干イラついてたのが私にも解った。
「それで、アンタを一人にしとくとこっちも心臓に悪いんだよ。・・・こういう訳・・・・も含まれる」
「含まれる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん。含まれる」
「他にもあるの?」
疑問に思って問いかけると、侑魔君は暫く何かを考えるように唸った後で、また私に目を向けた。
「あとは、優君の個人的な理由だから俺が話せるのは此処まで」
「え?」
「・・・・・俺ぁ好い加減頭痛がしてきたよ」
何か遠まわしに鈍いと言われてしまったようです。
・・・いやあ、私そういうの考えるの苦手なんだけどなー・・・。
「ええと・・・何かごめん・・・」
「ああ?何?行き成り」
面食らったような表情を浮かべた侑魔君に、思わず苦笑を浮かべた。
私にも一応罪悪感というものは備わっている。
「いや、何か・・・こう・・・侑魔君を悩ませてるみたいだから」
みたいっていうか・・・先刻しっかり『頭痛の種』的な発言もされてるしね。
そういうと、侑魔君は暫くの間を置いた後再び深ぁぁぁあい溜息を吐いて、爽やかな笑顔を浮かべた。
うわ怖い。
今までのどんな冷酷な表情より怖い。
「そうだな。・・・俺の悩み解消の為にも、早々に優君の心境に気付いてくれよな☆」
「う、は、はい・・・」
とてもじゃないけど逆らえる雰囲気じゃなかった。
―あとがき
何か某騎士様みたいになった。
取り敢えず侑魔君の心境としては「とっとと自覚してくっ付いてくれ」というね。