「・・・おはよう」
「お、おはよう・・・」
「うん、おはよー」
取り敢えず朝から起こった予想外の出来事に頭が付いて行かず、「いってきます」の「す」を言う手前で止まった姿勢のまま、普通に会話。
やや眠たそうに言われた最初の挨拶が侑魔君で、次が私、そしてそれに笑顔で返してくれたのが、優君である。
「・・・あの、どうしたの?二人共」
暫くの間脳内で『何か、約束しましたっけ』的な事を議題とした脳内会議が開かれたものの、『んーにゃ、覚えがございませんねえ』という結論が普通に流れ(どうでも良いけどこの議事長魅艶君っぽいぞ)、ならば何故来たし、という突込みに。
いや、だってホラ・・・朝の緩みまくった顔を家族以外に見られるのってちょっと女の子として・・・恥ずかしくない?
「いや、・・・念の為に迎えに来た」
「?」
念の為って・・・何の?
疑問符を浮かべる私の後ろで、再びドアが開いたものだから思いっきり私の背中にクリティカルヒットした。
地味に痛い・・・、お兄ちゃん、扉を開ける時は普通にあけてって言ってるのに・・・っ!!
「あ、優君。侑魔おはよー。時間通りに来る辺り、流石・・・」
二人の姿を見ながらお兄ちゃんがしみじみと呟く声を、私は聞き漏らさなかった。
時間通り・・・だと?
「・・・ちょっとごめんねっ!二人共!!お兄ちゃん、ちょっとこっちへ」
「はい?」
二人には満面の作り笑顔を向けて、最後だけ声を潜めてお兄ちゃんに低く告げ、私達は一度数歩下がって玄関へ戻る。
ちょっとお兄ちゃんに追求したい事が出来たんだよ。
「何で二人がモイホームへ来てる訳!?」
「動揺し過ぎじゃない白亜・・・モイホームって・・・ヘ○リアのフィ○ランドじゃないんだから・・・」
「違っ!今の言い間違いじゃなくて作者がただ打ち間違えただけで・・・とにかく!状況説明!」
一瞬いい間違えた所為で作者を恨みそうになったが、今はそれ所じゃない。
朝とか本当たまにひどい顔してる時あるんだもん・・・眠さ故に。
・・・私は低血圧なんだから仕方ない。
冬の朝とか特にひどいと思う。
「んー・・・・・・いや、何か・・・優君が白亜を送って行きたいとか言うから、じゃあよろしくーって話に・・・」
軽いノリで朝ごはんのトーストをムシャムシャしながら説明してくれるお兄ちゃん。
うわー、マーマレードの匂いが私の食欲までそそる・・・。
ただ朝ごはんを二枚も食べるのはちょっと・・・。
「・・・何故に侑魔君も一緒なの?いや悪い意味じゃないけど。っていう吃驚しただけなんだけど!」
何か面倒臭がって来てくれない確立物凄く高いような気がしたんだよね。家が隣とは言えね。
「だって朝一で逆走してくるよりも、侑魔君家に泊まった方が楽だったんだもん。距離的に」
「うひゃあ!?い、いつの間に背後に・・・」
背後から行き成り言われて、思わず飛び上がる。
どうやら遅い私を心配して優君達も玄関に半分位入ってきてたらしい。
お兄ちゃんそれならそれで何か言えし!!!
しかも至近距離で優君の整った顔を見せられると若干心臓によろしくないんですけども。
ばっくんばっくん言ってるよ。
「・・・はあ・・・」
不意に小さな溜息が聞こえて来て、思わず其方に視線を向ける。
「侑魔君?」
何故か侑魔君が若干浮かない顔というか・・・、何か正直落ち込んでるようなオーラが隠される事なく普通にただよっている。
・・・え、何が起こったんだろう・・・。
名前を呼びかけると、侑魔君は周囲に人魂を浮遊させたままで、「何でもない」と言うように軽く手を振った。
「いや・・・何でもない。・・・俺も好い加減優君離れの時が来たようだ」
「???」
「よっしゃ皐月。今朝から当分一緒に学校行くから付き合えし!!」
「はい?いや構わないけど」
若干寂しそう何かを呟いたかと思うと、不意にやけっぱちのようなテンションになって、侑魔君はお兄ちゃんに視線を向けた。
「えー、侑魔君一緒に行かないのー?」
勿論それに真っ先に反応したのは、優君だ。
残念そうな声を上げて侑魔君に首を傾げた。
私も吃驚した。
だって迷うことなく優君と一緒に行きたがりそうなのに・・・侑魔君。
「・・・・・・ああ。・・・今日から暫く蒼紺さんの半分は優しさで出来てることになった」
「君はバファ○ンかい?」
「ふ、そいつの友達さ」
バファリンの友達ってあんまり健康的によろしくない、っていう事で解釈して良いんですか?
確かにあんまり健康的とは言えないけどね、侑魔君は。
「そっか・・・解った。じゃあ、白亜ちゃんは僕が送っていくね」
暫く唸った後で諦めたようにそう言った優君に、侑魔君は「ん。・・・頑張って」と何故か寂しそうな笑みで呟き、また溜息を吐いた。
「???」
「・・・・・・・・・・・・・・・・俺が血の涙飲んで我慢してんだから説明させねえで察しろよ皐月」
「何か口の中鉄臭くなりそうだな」
私共々状況を理解しきれていないお兄ちゃんに、侑魔君のやや低くされた声が向けられた。
・・・な、何なんだろう・・・。
侑魔君の周囲が・・・暗い。
☆☆☆
「ねえ優君・・・どうして行き成り迎えに来たの?」
それを問いかけると、優君は一瞬表情を曇らせた。
・・・あーしまった、聞き方が単刀直入すぎた。
「あー・・・ごめん、嫌だった?」
「いやそういうのじゃなくて、吃驚したというか・・・何と言うか・・・」
慌ててそう言うと、優君はほっと溜息のようなものを吐いて、それから何かに気付いたように前方に鋭い視線を向けた。
それから、最低限の動作で素早く結界を張って見せた。
「・・・今は、危険な時期になってるみたいだからね・・・」
そう呟いた瞬間、何故か茂みから飛び出してきた妖怪が、結界に当たってバヂィッ!!と耳障りな音を立てた。
「ひっ!?」
何か・・・あの水族館のガラスを通してかなり至近距離で鮫を見てしまった時のような反応をして、思わず優君にしがみ付く。
「僕が居れば、多少はこういうのも・・・防げるからね」
妖怪が黒い物に包まれていく様をいつものようにのほほんと見つめて呟き、一秒後には普通に結界を解いていた。
何と言うか・・・頼もしい。
「・・・・・・頼りに、しても良いデスカ」
「うん。そうしてくれると嬉しいな」
そう言った優君の笑顔は、いつものように優しげなものだった。
頼りになるけど・・・心臓が破裂しかねないな、と思った今日この頃。
―あとがき
侑魔君どんまいww(笑
侑魔涙を飲んでくっつけるの頑張りました。
ちなみに侑魔君は血の涙飲まなくたって口の中は(吐血で)血塗れです。