「よっしゃあ!!4人5人で別れるぞ野朗共!!」
 
・・・何で体育の時間にバトミントンしましょうって言っただけなのにこんなに勇ましく宣言する必要があるんだろう・・・。
 
体操着とジャージ姿になった私達がまずやらなきゃならない事は、ミントンの為のチーム分け。
 
・・・まあ、コレは【グッとパー】で直ぐに別れるだろう。
 
「「へいへーい」」
 
翔魔君の勇ましさに対してこっちの二人の何とやる気のない事か・・・。
 
因みに返事をした人達はいうまでもない事だと思うケド、侑魔君と魅艶君の二人です。
 
「やる気ないなー二人共」
 
「凄い気のない返事だよねー」
 
「いつもの事じゃん」
 
上から順に、お兄ちゃん、爾君、湊君の台詞。
 
・・・っていうかまあ、予想はついてたけどさあ・・・。
 
(いつもの事なんだ・・・)
 
・・・そろそろ慣れ始めてる私の順応力半端無いな・・・、なんて苦笑いしつつ。
 
 
 
                   こっから優&魅艶ルート
 
 
 
「ほっ!!」
 
「よいしょー」
 
「ていっ」
 
「はーい」
 
「えいやっ」
 
「よーっと」
 
先刻から、コートの端から端だったりネット際だったりで物凄い接戦が繰り広げられてる。
 
しかも、掛け声が凄い緩い!!
 
(何か・・・凄い脱力系な掛け声で物凄い高レベルな戦いが繰り広げられてる・・・)
 
因みに今戦ってるのは優君と魅艶君。
 
先刻からシャトルが色んな所に吹っ飛んで行ってるんだけど・・・本当、二人共何者なんだろう。
 
「・・・ふぁあ・・・」
 
小さく欠伸をする声が聞こえたと思って目を向けると、優君と同じチームを組んだは良いものの、二人の勝負が白熱していてやる事がないのか、暇そうにしている侑魔君が。
 
視線を隣のコートに向けて、そっちのシャトルを目で追っている。
 
(侑魔君が物凄い退屈そう・・・・・・まあ、解るけどさ)
 
この接戦じゃあ、まず入り込めないしねー・・・。
 
「侑君行った行った」
 
不意に優君から声を掛けられて侑魔君が此方に視線を向けた時には、既にシャトルは侑魔君の前にある。
 
さて、どうするんだろう・・・。
 
 
バシッという音と共に、シャトルが存外勢い良く打ち返される。
 
(これまた脱力系なのに威力強いな!!っていうかこっち来たぁ!!!)
 
やばいやばい。
 
私なんかまだ構えても居ないのに!
 
「えいやっ!!」
 
慌てて返したシャトルは意外と勢い良く飛んで、ネットに引っ掛かり、それでも何とか相手のコートに入った。
 
・・・まぐれの神様、有難う!!(居るんかいなそんなもの)
 
「中々上手いねー、白亜ちゃん」
 
「あ、ありがとう」
 
優君からほわっとした調子で褒められると照れる。
 
「本当。ってか優君も上手いよー」
 
「ありがとー」
 
二人の間に友情が芽生えて居そうな遣り取りの間、完全に蚊帳の外に居るらしい侑魔君は・・・。
 
「あ゛ー・・・眠い・・・」
 
本当に眠たそうに目を擦っている。
 
・・・寝不足なのかな。
 
こうしている間に、今にも寝てしまいそうだ。
 
とか考えていた次の瞬間―――・・・。
 
『きぃぃいいいいいい!!!!』
 
!?』
 
不意に聞こえた台詞に、体育館に居た私達の行動は停止した。
 
体育館の隅っこに目をやると、今までコートを半分使って高飛びをやっていた二年生の何人かが、妖怪になっていた。
 
うわ、何か前回とは違うグロさがある・・・。
 
思わず後ずさる。
 
「・・・優君!!!」
 
「はぁい」
 
侑魔君が声を掛けると、優君が軽く腕を振る。
 
次の瞬間、桃色の膜のような物が体育館内に溢れ、体育館を包む。
 
そうすると、今までパニックになっていた生徒と先生方が、憑き物が落ちたようにパタリパタリと倒れていった。
 
「数が多くない!?今回」
 
「僕らはバラけて戦った方が一般の生徒に被害でなくて済むかもね」
 
時雨君の台詞に対して、翔魔君が外に行こうとしてる妖怪の何人かを目で追いながら言う。
 
「じゃあグレさんとみっつんは生徒の避難宜しく〜。で、優君は引き続き学校全体に結界張ってて〜」
 
みっつんて言うなぁあああ!!
 
「じゃあ何、みっちゃん?」
 
ふは、それもう違うキャラじゃねーか
 
とにかくさっさとする!!
 
魅艶君と爾君の遣り取りに時雨君が小さくツッコミを入れる形で乱入し、振り返った翔魔君に睨まれていた。
 
・・・何で戦闘においてまでこんなコントみたいなテンションなんだろう・・・、この人達。
 
(私はどうすればいいんだろう・・・)
 
瞬時に皆の居なくなった体育館の隅っこで、私は途方にくれる。
 
階上へ行った人、今この空間内で妖怪と戦って居る人、外に生徒とかを運び出してる人・・・様々だけど。
 
私はぶっちゃけやる事ないし、あんな能力も持っていない。
 
(取り敢えず、隠れなきゃ・・・)
 
色々考えた末、私が隠れたのは体育館の倉庫。
 
狭いけど、隠れるには格好の場所―――・・・
 
「きしゃああああ!!肉ゥウウウウ―――!!!」
 
「きゃあ!?」
 
だと思ったのに。
 
何で発見しちゃうんですか。
 
そんなに私の事好きですか。
 
でも私は相手にするなら人間が良いので、出来れば他を当たって下さい。
 
内心でパニックになりすぎて逆に冷静な思考を繰り広げながら、呟く。
 
此方めがけて襲い掛かってくる妖怪の図に、転校初日の様子がフラッシュバックして、恐怖に体が固まる。
 
・・・やばい。
 
そう思った瞬間、
 
「ぎゃんっ!!」
 
「!?」
 
何か一瞬犬のような声を上げて、妖怪が私に触れる寸前で弾き飛ばされた。
 
「・・・あれ?」
 
何か、デジャヴを感じる。
 
この、私の周りに張ってある薄い膜は・・・?
 
「良かった〜。間に合ったね」
 
状況を判断するのに必要な冷静さを取り戻せないで居る私の耳に、ほわほわとした声が届いたのは丁度その時。
 
「優君!?」
 
どうやら私の周りにキチンと結界を張っておいてくれたらしい優君が、ニッコリと笑いながら歩み寄ってきた。
 
軽やかな足取りで、目の前に転がって居る妖怪なんか意にも留めてない。
 
「今回は怪我しなかったね」
 
やんわりと笑いながら私の頭を撫でる優君に、心配してくれたのだろうか・・・と考えた。
 
「う、うん・・・。今の、優君がやったの?」
 
本人凄い遠くからゆっくり歩いてきてたけど。
 
何かもう、妖怪達が暴れ回り血肉沸き踊る生臭い体育館の中でそこだけ浮いてたよ。
 
あんまりにも軽やかに歩いてくるから。
 
「一応ね。白亜ちゃんに怪我されちゃ嫌だから、目を光らせてたんだよ」
 
にこーっと笑って嬉しい事を言ってくれる優君だけど、私にそれを噛み締めている時間は無かった。
 
何故なら、彼の背後に忍び寄る妖怪の姿を発見してしまったから。
 
「・・・!後ろ!!」
 
慌てて叫んだけど、次の瞬間、「大丈夫」とでも言うように優君の周りが淡く光り、妖怪が弾き飛ばされた。
 
それから、妖怪の周囲に薄い膜が掛かって、串刺しにされる。
 
結果として、妖怪はあっさりと黒い靄に飲まれて消えた。
 
「此処には入ってこられないようにしたから、平気だよ」
 
言いながら、私の隣で微笑む。
 
何事も無かったかのようなその表情の柔らかさに、此処が今は戦闘地区だという事を忘れそうになる自分が居た。
 
「凄い・・・」
 
「あはは〜。有難う〜」
 
感嘆の声を上げれば、ほわほわとしたお礼が返って来る。
 
・・・というか、この場合って私がお礼を言わなきゃならないんじゃ・・・。
 
「・・・優君、皆のところ行かなくて良いの?」
 
ふと思いつき、首を傾げる。
 
すると、私の隣に・・・つまる所積み上げてあったマットの上に座り込んだ優君も首を傾げる。
 
「え?だって無理っしょ。僕、君についてないといけないし」
 
「・・・え?」
 
人差し指をおったてて、そう言ってから、優君は再度首を傾げた。
 
それから、やんわりと笑う。
 
 
 
「言い方間違えた・・・。・・・君についていたいしね」
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 
一瞬、脳細胞が死滅したかと思う位の衝撃が頭にきました。
 
勿論例えの話し。
 
強いて言うなら電気がビビビみたいな。
 
「・・・っ」
 
顔が熱くなっていくのを感じながら、私は言葉を捜して視線を彷徨わせる。
 
誰かこの出張豆腐屋ホストをどうにかして下さい。
 
でないと私の心臓が止まる。
 
「?どうかした?」
 
「いいえ何でも!!!」
 
慌てて首を横に振って、私は乾いた笑みを浮かべた。
 
(・・・ホストだ。この人絶対豆腐屋よりホストに向いてる・・・!!!)
 
そうひしひしと痛感した瞬間だった。