※長いのでちょっとカットしました。
途切れ途切れの言葉と共に、他のゾンビも此方に近寄ってくる。
最早妖怪とも呼べない。
(言ってる意味が解らない・・・っ)
がちがちと歯が音を立てて震え、全身の血の気が引いた。
殺される。
そう思ったら、冷静じゃいられなくなった。
「助けて!!!誰か!!!!!!!!!!」
死に物狂いで、周囲に叫ぶ。
誰でもいいから、助けて。
脳内に浮かぶバカレンの皆に向かって、助けを求める。
次の瞬間――・・・
バキィッ!!!!!
「ギャン!?」
凄まじい音と共に、私に最も接近していた妖怪が一体、吹っ飛んでいった。
何処からか飛んで来たバス停の看板と共に。
「え・・・?」
思わずポカンとして、脱力する。
こんな事出来るのは、私の知っている中でも一人だけ。
「白亜!!君を助けに来た!!」
私の前に立ったシルエットを見上げて、目を瞬かせた。
頼もしく見える、その背中は――・・・、
「お兄・・・ちゃん?」
私の声に振り返って、お兄ちゃんは柔らかい笑みを浮かべてくれた。
「―――・・・」
とくん、と一瞬だけ心臓が大きく高鳴る。
そしてお兄ちゃんは小さく溜息を吐いて、そして――・・・。
「くあーっ!!決まったぁぁ!!コレ一回言ってみたかったんだよねぇえ!!」
盛大に空気をぶち壊した。
「空気!!!ちょ、お願いだからお兄ちゃん空気読んで!?最後の一言は滅茶苦茶要らなかったんですけど!!!」
「えええ・・・俺結構頑張って格好良く決めた方じゃない!?」
「前半は格好良かったけどね!!」
前半はね!!!!
最後までその格好良さを持続してくれれば私も大人しく状況に流されてたんだけども。
コレは突っ込みいれないと駄目なパターンだろ。
「うーん・・・難しいなー・・・」
貴方がややこしくした状況なんですけど。
寧ろ何であの状況下であんな台詞を――あ゛ーもう。
登場は格好良かったのに。
内心でそんな事を考えつつうだうだしていた私の視界に、お兄ちゃんに遅い掛かろうとしている妖怪の姿が見えた。
しまった、こんな事してる場合じゃないんだった。
「っていうかお兄ちゃん後ろ!!」
慌てて指差したのと、妖怪が腕を振り上げるのはほぼ同じタイミングだった。
ヒュッ
「おわっとぉ!?」
「グルルル・・・」
間一髪で回避したものの、あんな攻撃に当たったらひとたまりもない。
・・・コレってひょっとしてかなりピンチ?
冷静になった今なら何となく解るけど、これってひょっとして誰か別の人も呼んだ方がいいのかな・・・。
一応携帯番号知ってはいるけど。
「・・・・・・・・・やっぱ帰る前にコレ片付けないと駄目だよなー・・・」
ポツリと呟いたお兄ちゃんに、私は思考の海から一旦浮上する。
片付けないと駄目も何も。
バカレンってコレの討伐が確か仕事なんじゃありませんでしたっけ!?
お兄ちゃん突っ込み所多すぎるよ!!
「いや、コレ野放しにして普通に帰れる状況にはならないでしょ」
背中向けた瞬間食われる確立大だ思う。
「だよなー・・・。ふう・・・」
そう言うと、お兄ちゃんは困ったように小さく溜息を吐いた。
溜息を吐いて、視線を妖怪の方に向ける。
その視線は何故か、いつになく鋭い。
「・・・?」
「仕方ない。じゃあちょっと手荒な方法になるけど・・・白亜に怖い思いもさせたようだし、行きますか」
言いながら、お兄ちゃんは人差し指をクイッと引いてみた。
次の瞬間、その辺りの花壇や植木の所から土がぶわっと浮き上がり、物凄い勢いで妖怪達の手や足、頭にまとわり付く。
「!?」
「俺の能力は物体操作と、強化なんだけど・・・」
「ギィ!?」
驚いて息を呑んだ私に対してはいつもと変わらないのんびり具合で、説明を開始する。
ただ、その目は相変わらず妖怪に対して少し苛立っているような感情を写していたけど。
「土を持ち上げて、体中に引っ付かせたら息が出来なくなるじゃん?」
「う、うん・・・」
というか、顔にくっ付けた時点で窒息しかねないと思うけど。
見たところ妖怪達も苦しがってバタバタしてるし、呼吸器官は人間と同じと見える。
って何冷静に観察してんの私。
「でもそれだけだと土が振り払われるから、土と周辺の空気を強化して、固めて動きを封じた上で振り払えないようにしてみると、こういう感じになるんだー」
「凄く説明がアバウトなんだけど・・・えっっぐい攻撃するな・・・お兄ちゃん」
「え、そう?」
「うん・・・」
しかも本人目茶目茶のんびり喋ってるし。
初めてお兄ちゃんが怖いと感じました。
「さて。・・・こうなったら後は時間の問題だし、帰っても大丈夫かな」
「・・・」
呼吸が出来ず悶え苦しんでいる妖怪達は、靄に呑まれ始めて居る。
多分、このまま窒息して消えるのを待つだけの状態だ。
その姿に、同情しないかと聞かれると嘘になる。
「ってか白亜」
「へ?」
少し声のトーンが私を叱るようなものになったので、思わず身構える。
案の定、お兄ちゃんはちょっとだけ表情を厳しくしていた。
「あんまり心配せるなよ。体質の事もあるんだから、君はもうちょい単独行動を減らすべきだと思うよ」
・・・何か、本当に心配をかけてしまったらしい。
その一点がようやく理解できて、俯く。
「・・・、ごめん・・・」
ポツリと小さな声ながらも謝ると、諌めるような空気が少し柔らかくなった。
それからゆるゆると戻って、いつもと同じようなほんわりとした空気に戻る。
「いや、次から気をつけてくれるならいいけどさ。あ、今日の夕飯何?」
行き成り夕飯の話に戻るんですか。
それより何より私は気になる事があるんですが、それを聞いてから答える方向でも良いでしょうか。
「そ、それ答える前にお兄ちゃん、ちょっと良い・・・?」
「ん?」
「この体勢は何ですか?」
先刻のショックは体に残っていたらしく、碌な抵抗もできないまま、問いかける。
お兄ちゃんは何故そんな事を聞くのか、というように目を瞬かせ、口を開いた。
「おんぶ」
「・・・・・・・・・・・・」
いやそれは見れば解るよ、されてる側なんだから。
問題は何故負んぶをされているのかという話であってですね。
私の表情で流石のお兄ちゃんも気付いたのか「あぁ」と呟いて、苦笑いを浮かべた。
「いや、腰抜けて歩けないかな、と思って。」
何故バレた。
え、何かお兄ちゃん、アレこんなキャラだっけ?
こんなに気が利く人だったっけ?
「・・・・・・・」
「白亜?」
混乱中だった私を呼び戻したのは、戸惑いながらも私の名前を呼んだお兄ちゃんの声。
此処で抵抗したって別に・・・意味はないし。
ならば取り敢えず、この状態のままでも悪くは無いかな。
ただ、恥ずかしいだけの問題だし。
「こ、今回は大人しくおんぶされてあげるんだからねっ!!今回だけなんだからねっ!!」
「え?何でツンデレ・・・?」
何となくですよお兄ちゃんの馬鹿―――!!
―あとがき
BGM@椎名林檎のアイデンティティ
お兄ちゃんお怒りです。地味に怒ってます。
そして何か、書いてて訳が解らないノリになってしまった・・・怒らないでネッ☆
ってか攻撃のエグさに関してはバカレン皆共通だと思うんだ。