そしてメットへ行く当日。
私は駅にて爾君と合流し、着々と足を進めていた。
「という訳で行くぞー白亜ー」
前方で手をパタパタと振ったお兄ちゃんに苦笑して、コクコクと軽く頷く。
「はいはいしっかり憑いてくよお兄ちゃん」
「え、幽霊になって付いて来ないでね?」
「解ってるよ!お兄ちゃんの馬鹿!!」
「へぶっ!!」
白亜 は 乙女 の 鉄拳 を 喰らわせた ▽
お兄ちゃんの脇腹にクリーンヒット!!
お兄ちゃんは三十のダメージを受けた。
気にしないで下さい。
私達のやり取りなんていつもこんなもんです。
「お兄ちゃんの馬鹿、か。王道だねえ〜?」
爾君もしみじみとよく解らないことを呟いてるし・・・。
「まだそのネタでからかわれ続けるの、俺!?」
いやあ、お兄ちゃんの反応は面白いから・・・からかいたくなる気持ちは凄く解る。
っていうか私、こういうのにくっ付いてくると必ずと言って良いほどお兄ちゃんとはぐれるんだよね・・・。
今回はそういう事、ないと良いけど・・・。
☆☆☆
―数十分後。
案の定、迷子になりました。
ふ・・・、お約束過ぎる展開に若干泣きそうだわ。
「あーもーお兄ちゃんの馬鹿・・・此処何処よ・・・」
周りを見渡してもあんまり解らない場所だし。
先刻交番に行こうと試みたけど、そういやあ交番がこの近くにあるのかも甚だ疑問だし。
あーあー、私何やってんだろう。
「あーなたはーいーまーどこでなーにーをしていますーかー♪」
口ずさみながら、途方にくれる。
って言うかお兄ちゃん達・・・ちょっと位こっちに気付いてくれたって良いのに。
「・・・多分、店に着くまで私の事忘れてるね。ふふふふふ。あー、悲しくなってきた。」
見たところ二人共何か今期のアニメについて話込んでたし・・・。
何か・・・こうしてると小さい頃の事を思い出すな―・・・。
☆☆☆
『お兄ちゃぁああん!!お兄ちゃぁああん!!ふえええええん!!!』
『ごめん白亜!!先刻山川君と吉野君と榊原君とえーと・・・鈴木君と須藤君とー・・・アレ?あと誰だっけ』
『ふぇええん!!お兄ちゃんの馬鹿あああ!!』
『うあああごめん!!本っ当ごめん!!とにかくその子達見つけてついサッカーに夢中になっちゃって!!えええどうしたら泣き止むの!?どうしようマジで!!』
因みにその後私は十五分位に渡って泣き続け、お兄ちゃんを散々困らせた記憶がある。
だが後悔はしていない。
ぶっちゃけ今でも私をよくも置いていきやがったなこの野郎、位は思ってる。
「・・・あんだけ豪快に泣けたのは後にも先にもあの年位だよね・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その後にも泣いた記憶チラホラあるけど」
取り敢えず出てきたその後の泣いた記憶は軽く記憶の底に沈めるとして・・・問題は今だ。
これからどうしよう、私。
こんな中途半端なところじゃ帰るに帰れない。
「っていうか眠い・・・どうしようかな・・・」
どうしようかも何も、動けないんだけど・・・。
ってか今日に限って携帯忘れたし。
ああもう何て間の悪い。
っていうか空気読めし携帯。
思わず口から溜息が零れ出る。
・・・いかん、何か寂しくなってきた。
(・・・・・・・・・昔からお兄ちゃんは、私を置いていっても平気なんだもんね)
捻くれた事を考えて、立ち尽くす。
「・・・ああ、この恨み・・・晴らさでおくべきか・・・」
呟いて、再度溜息を吐こうとした瞬間――・・・、
「おい!!」
「!?」
後ろから肩を叩かれて、驚いた。
し、心臓が飛び出すかと思った・・・。
ロシアまで飛んでいってシベリア鉄道にぶつかる勢いだよ。
心臓弾け飛ぶね。
それはさておき、慌てて振り返るとそこに居たのは―――やや血相を変えて私の肩を引っ掴んでいるお兄ちゃん。
「何ボソリと怖いこと言ってるんだよ・・・探したぞ?」
「え?お兄ちゃん・・・?」
・・・どうやらかなり焦って探してくれていたらしい。
肩で息してる辺りがもう、探し回っていた数分間の必死さを物語っている。
「『え?』じゃないよ・・・。後ろ振り返ったら変なおばあちゃんしか居なくて吃驚したよ・・・。てっきり白亜が瞬時に老化したのかと」
「殴るよ?お兄ちゃん」
「違うって解ったんだから良いだろ!?」
いや、その勘違い自体が若干腹立たしいんですけど。
瞬時に老化とか有り得ないから。
私はどれだけのスピードで一生を生きてるんですかソレ。
そこまで考えてから、はたと我に帰り、お兄ちゃんをまじまじと見つめてみる。
「・・・・・・・」
「白亜?」
訝しげに思ったのか、お兄ちゃんも私の肩から手を離して疑問符を浮かべた。
「いや・・・はぐれて数十分しか経ってないのに、お兄ちゃんが迎えに来るなんて・・・」
なんて思わず思ったことをぽろっと口に出して言ってみると、お兄ちゃんは呆れたような表情になって、肩を落とした。
何か後ろにどよんとした物が広がっている。
それから直ぐに顔を上げて、呆れたような複雑な表情をして見せた。
「・・・・あのねえ白亜、俺だっていつまでも小学生のガキじゃないんだから・・・。好い加減お前を忘れて自分一人遊ぶって事はないから」
「え゛?」
てっきり私はお兄ちゃんはあの頃のまますくすくと育ったもんだと思ってましたけど何か?
いやだって普通に置いていかれそうな嫌なものを感じるし。
私の表情から何かを悟ったのか、お兄ちゃんは若干いじけたようなオーラを出し始めた。
「お前俺を何だと思ってるの・・・」
「うーん・・・」
「考え込むなよ!!」
「だって、コレ正直に言うべきか三割良くして言うべきか・・・」
「迷わず後者を選べよ!ってかえ!?そんなに酷いの!?それだけで結構傷つくよ!」
って言われても・・・一緒に住んでる分当然不平不満も多い訳で。
っていうか、家族ってそういうもんじゃない?
良い所も悪い所もあるけど、普段は悪い所しかいえないーみたいな。
べ、別にっ!全部が嫌いって訳じゃないんだからねっ!
好きな所の方が多いとか、そんな事、ないんだからねっ!!
・・・・・・若干やってて自分のノリが気持ち悪くなってきた。
「取り敢えず、ホラ爾君待たせてるんだから・・・行くよ?」
言うなり、私の手を掴んで歩き出したお兄ちゃんに、思わずたたらを踏んだものの、頑張って一緒に歩く。
「う、うん」
・・・この年になって手をつないで歩く、なんて予想外というか。
それでも悪くないと思ってしまうのがお兄ちゃんの凄いトコだと思う。
「はぐれないだろ。こうしてたら」
「・・・そうだね」
何の衒いもなくそう言ったお兄ちゃんに、私一人が照れているのは癪だから・・・頑張ってなんでもないフリをする。
数分後、はぐれた場所で待っていてくれた爾君に、手をつないで歩いていた事をお兄ちゃんが(此処重要)からかわれたのは言うまでも無い。
―あとがき
BGM@木村カエラさんのBUTTERFLY
お兄ちゃんは過去も知っていたりするアレです。美味しいキャラです(何
眠くて何言ってるか解りません。日奈月です。