「よっしゃあ!!4人5人で別れるぞ野朗共!!」
 
・・・何で体育の時間にバトミントンしましょうって言っただけなのにこんなに勇ましく宣言する必要があるんだろう・・・。
 
体操着とジャージ姿になった私達がまずやらなきゃならない事は、ミントンの為のチーム分け。
 
・・・まあ、コレは【グッとパー】で直ぐに別れるだろう。
 
「「へいへーい」」
 
翔魔君の勇ましさに対してこっちの二人の何とやる気のない事か・・・。
 
因みに返事をした人達はいうまでもない事だと思うケド、侑魔君と魅艶君の二人です。
 
「やる気ないなー二人共」
 
「凄い気のない返事だよねー」
 
「いつもの事じゃん」
 
上から順に、お兄ちゃん、爾君、湊君の台詞。
 
・・・っていうかまあ、予想はついてたけどさあ・・・。
 
(いつもの事なんだ・・・)
 
・・・そろそろ慣れ始めてる私の順応力半端無いな・・・、なんて苦笑いしつつ。
 
 
 
             ※此処から侑魔・翔魔ルート
 
 
 
「侑魔疲れてきた〜?」
 
「ちょっとなぁ〜」
 
翔魔君の問いかけに、汗を拭いながら侑魔君が軽く溜息を吐いた。
 
先刻から右に左にウロチョロとしている侑魔君はひたすら汗びっしょりだ。
 
お兄ちゃんと翔魔君の方も汗は掻いてるみたいだけどね。
 
「まあ1対2だしねー」
 
「好きだから良いケドな」
 
お兄ちゃんの台詞に対しては、侑魔君は苦笑染みた笑みで応える。
 
っていうかこの二対一という状況は元々私の所為で出来たような物なんだよね・・・。
 
「私代わろうか〜?」
 
挙手すると、三人の視線が此方に集中する。
 
・・・特に睨んでる訳じゃないのは知ってるけど、三人からの視線を受けるのは若干「う」ってなるな・・・。
 
「良いよ。アンタ足捻ってたし」
 
「僕らの事は気にしないで、無理しないで休んでて良いから」
 
「そうそう。無理は禁物さ」
 
「有難う・・・」
 
三人の台詞にじんと来るものがあった私は、胸を押さえて頭を下げた。
 
・・・今まで友達からこんなに心配されたりとかなかったからなー・・・男の子相手だけど、嬉しい。
 
そんな私に三者三様で「どういたしまして」と告げてから、三人は再びコートに戻った。
 
「ホラホラ侑魔〜エルオルトが見てるぞぉ〜
 
「・・・・・・・・・」
 
あ、やべえ目がマジになった
 
ラケットを構えた瞬間の翔魔君の発言に、侑魔君の目つきが獲物を狙う鷹の目に変わったのを、私は見逃さなかった。
 
眼光がかなり鋭い・・・。
 
いつもは眠そうっていうか、全力でだるそうな表情してるのに(かなり失礼な話しだけど)今はメッチャぎらぎらしてる!!!
 
そうしている間にお兄ちゃんがサーブを出して、そのサーブを侑魔君が打ち返す訳だけど・・・。
 
何か物凄い嫌な予感がする。
 
はっ!!!!
 
ビュオンッ!!
 
説明しよう。
 
今侑魔君が打ったシャトルは物凄いスピードでお兄ちゃんの元へ戻り、顔面スレスレを飛んでコートの端っこにバシッという音を立てて入った。
 
うおぉおおおお!?早っ!!怖っ!!!
 
「しまった・・・体力復活させすぎた・・・!!!」
 
何してんの―――!!
 
「・・・・」
 
「何かもう目つきヤバイし!!侑魔の目つきが大変危険なことになってるしぃぃい!!」
 
お前の口調もやばいしな!!
 
お兄ちゃんと翔魔君は素なんだかそうでないんだか(少なくともお兄ちゃんはだろう)コントを繰り広げている。
 
・・・元気な人達だなー・・・。
 
・・・足捻らなかったら私もあの中に居られたのに。
 
ちょっと疎外感。
 
『きぃぃいいいいいい!!!!』
 
不意に聞こえた台詞に、体育館に居た私達の行動は停止した。
 
体育館の隅っこに目をやると、今までコートを半分使って高飛びをやっていた二年生の何人かが、妖怪になっていた。
 
うわ、何か前回とは違うグロさがある・・・。
 
思わず後ずさる。
 
「・・・優君!!!」
 
「はぁい」
 
侑魔君が声を掛けると、優君が軽く腕を振る。
 
次の瞬間、桃色の膜のような物が体育館内に溢れ、体育館を包む。
 
そうすると、今までパニックになっていた生徒と先生方が、憑き物が落ちたようにパタリパタリと倒れていった。
 
「数が多くない!?今回」
 
「僕らはバラけて戦った方が一般の生徒に被害でなくて済むかもね」
 
時雨君の台詞に対して、翔魔君が外に行こうとしてる妖怪の何人かを目で追いながら言う。
 
「じゃあグレさんとみっつんは生徒の避難宜しく〜。で、優君は引き続き学校全体に結界張ってて〜」
 
みっつんて言うなぁあああ!!
 
「じゃあ何、みっちゃん?」
 
ふは、それもう違うキャラじゃねーか
 
魅艶君と爾君の遣り取りに時雨君が小さくツッコミを入れる形で乱入し、振り返った翔魔君に睨まれていた。
 
・・・何で戦闘においてまでこんなコントみたいなテンションなんだろう・・・、この人達。
 
(私はどうすればいいんだろう・・・)
 
瞬時に皆の居なくなった体育館の隅っこで、私は途方にくれる。
 
階上へ行った人、今この空間内で妖怪と戦って居る人、外に生徒とかを運び出してる人・・・様々だけど。
 
私はぶっちゃけやる事ないし、あんな能力も持っていない。
 
(取り敢えず、隠れなきゃ・・・)
 
色々考えた末、私が隠れたのは体育館の倉庫。
 
狭いけど、隠れるには格好の場所―――・・・
 
「きしゃああああ!!肉ゥウウウウ―――!!!」
 
だと思ったのに。
 
何で発見しちゃうんですか。
 
そんなに私の事好きですか。
 
でも私は相手にするなら人間が良いので、出来れば他を当たって下さい。
 
内心でパニックになりすぎて逆に冷静な思考を繰り広げながら、呟く。
 
此方めがけて襲い掛かってくる妖怪の図に、転校初日の様子がフラッシュバックして、恐怖に体が固まる。
 
・・・やばい。
 
そう思った瞬間、
 
 
「きゃあ!?」
 
とにかくさっさとする!!
 
!?』
「駄目だよ〜この子に手ぇ出しちゃ」
 
ゴゥッと凄まじい音を立てて、炎の壁が突如目の前に現れ、私と妖怪の間を隔てた。
 
そして、瞬間的に背後に周りこんできた何者かに、抱き寄せられた。
 
「「!?」」
 
あっさりとバランスを失い、その人物の胸に後頭部をぶつける形で抱きこまれた私は、慌てて顔を上げた訳だけど・・・そこに居たのは・・・。
 
「この子は一応僕のなんだからさ」
 
いつそんな事決定しましたか!?
 
何かニッコリと笑いながら後ろに炎背負ってる(比喩的な意味ではなくマジで)翔魔君でした。
 
吃驚しすぎて思わず状況忘れて翔魔君に言い返してしまった。
 
寧ろ私はいつから貴方の物になったんでしょうか。
 
っていうか顔が良いんだからあんまりそういう事を女の子に言わない方が良いと思いますけど。
 
「先刻かな〜」
 
「ええええええ・・・」
 
しかも先刻って。
 
今にもケセセセセとか笑い出しそうなあくどい笑み浮かべてそんな。
 
「取り敢えず、さ」
 
ニコッと笑いながら、私を抱かかえている腕とは反対の腕を妖怪の方に突き出す。
 
次の瞬間、ボッという音。
 
「・・・っ!?」
 
目に鮮やかな炎に驚き、身を強張らせた私の目を先刻炎を放ったばかりの翔魔君の手の平が塞ぐ。
 
「物が焦げて死ぬ程苦しむ様を見たくないなら、目ぇ塞いでた方が良いかも知れないね」
 
そんな、笑いを含んだ声が聞こえた刹那―――・・・
 
ぎゃああああああ!!
 
耳を劈(つんざ)くような断末魔の悲鳴と、何かが焦げる音、匂い。
 
どう考えても生理的に好きになれない物のオンパレードに、私は自分の手で思わず口元も覆った。
 
「――――・・・っ」
 
焦げた匂いが、気持ち悪い。
 
音が何も聞こえなくなった辺り、恐らく妖怪は地獄に落とされたんだと思う。
 
冷静な思考に戻ろうとしても、中々そうは行かなかった。
 
「大丈夫?・・・やっぱ慣れてないと悲鳴でもクるか・・・」
 
私の目を塞いでいた手をどかしながら、翔魔君が聞いてきた。
 
こんな悪臭の中に居ても尚、翔魔君の表情はいつも通りで、けろっとした物だった。
 
「へ、平気・・・」
 
元来の負けず嫌いが作用して、反射的にそう言って見せる。
 
此処で私が騒いで、足手まといになってもいけないだろう、という考えからの行動だった。
 
「・・・そう?なら、僕はこれから暫くの間遠慮なく妖怪倒さなきゃならないから、もうちょっと耳と目塞いでて欲しいんだけど」
 
それは、大いに構わない。
 
私も出来ればの惨状を生で見たいとは思わない。
 
先刻まで妖怪が居た場所に目を移せば、黒い焦げ跡。
 
・・・消し炭すら残さない火力で生き物(?)が焼かれる様を見るのは、出来れば一生御免蒙る。
 
ただ、一つだけ私は翔魔君に言っておかなければならない事を発見した。
 
「・・・・・・その前に」
 
「何かな?」
 
・・・・・・いつまでもこの状態なのはちょっと
 
そう。
 
私は先刻から翔魔君に抱きしめられっぱなしです。
 
っていうかいつどうやって私の背後にやって来たのか、それもだしさ。
 
後ろには壁しかない筈なんだけど。
 
「良いじゃん。ちょろちょろされるより、この方がずっと楽なんだし〜」
 
「・・・っ」
 
ちょろちょろって。
 
確かにそうかも知れないけど。
 
「さあて、次が来るから早く目ぇ塞いで」
 
満面の笑みを浮かべて、翔魔君が再び言って来る。
 
腰に手をまわされて、体が密着する。
 
(・・・ドキドキ、してる)
 
・・・コレが俗に言う、吊り橋効果って奴だろうか・・・。