「さあて、じゃあ早速・・・やろうか」
耳元で聞こえた声に、ギュッと目を瞑る。
それを握り締めている手に力が篭もるのも自覚できた。
我ながらかなり緊張しているらしい、というのがわかる。
「うん・・・覚悟は出来てるよ・・・」
そう言った自分の声は緊張に満ちていて、今から行う事に対しての恐怖心が滲み出ていた。
「・・・あのさ、何で僕に格ゲー教わるってだけでそんなにガッチガチになる訳?僕傷ついちゃうんだけど」
隣で呆れたような溜息を吐きつつそういうのは、勿論翔魔君。
此方現場の白亜です。
実は私達は今、ゲームセンターに来ているのです!!
何故かって?
それは・・・先日私が受けた翔魔君からの『今度、一緒にゲーセン行く?』というお誘いの為。
律儀に覚えててくれたんだ、というよりも本気だったんだ・・・という事に対する驚きの方が大きいんです。
ホラ、何か翔魔君・・・本気で実行する気なさげな顔してたから。
「いや、だって・・・翔魔君ってスパルタっぽいイメージがあるんだもん。物凄く」
「・・・最後を強調しないで欲しいんだけど・・・」
「・・・」
でもまごうことなく私の本音なんだな、コレが。
だって顔の造形からして明らかにエス寄りの人ですよね、この人。
いや、別に見た目だけで判断するつもりはないけど。
中身も考慮した結果こういう感想を抱いたのであって。
って、私は一体誰に対して弁解しているのか。
翔魔君?なら口に出せよ、と思った方・・・いらっしゃいますよね?
違うんですよ。
コレを口に出したら私が今口に出してる台詞以上に失礼なこと考えてるのが翔魔君にバレるから口に出さないんじゃないですかHAHA。
・・・何かテンパり過ぎてノリが時雨君みたいになってきた・・・。
そんな私の横で、少しだけ不機嫌そうに眉を顰めている翔魔君に、チラリと伺うような視線を向ける。
「僕だって初心者相手に本気出すほど大人気なくないよ」
「・・・え?」
「・・・うん、良い度胸だネ☆」
「え、あ!!嘘、ごめん今の『え』は嘘!!!」
しまった、つい本音がポロッと。
やばい、何か嫌なスイッチ押したような気がする。
何か目つきが!!目つきが怖いって!!!
威圧感が増した―――!!!
「今更言ってもダーメ。・・・お望みどおり、スパルタで手取り足取り教えてあげるよ・・・」
ぎゃあああ、黒い!!
何か笑みの種類がちょっとやばいぃいい!!
「咄嗟に出ちゃったんだってば!!」
「君って湊タイプなんだね・・・言い訳して地雷踏みまくってるよ?」
「その台詞ってさり気なく湊君に失礼なんじゃ・・・」
「ああもう良いからホラさっさとやるよ」
「はーい」
呆れたようにあっさりと言われて、軽く返事を返した。
・・・こうなると本当今までのノリは何だったんだか、って感じだけど・・・変な事されるよりは断然マシなので、敢えて今度は何も言わない。
☆☆☆
ゲーム画面に出たYou winの文字を見て、ホッと溜息を吐く。
画面上に立っているのは、私が使ってる猫のキャラクター。
つまる所、コンピュータ相手だけど・・・私の勝ちって事になる。
「中々上手くなったじゃない」
「ありがと・・・」
横から聞こえた賛辞に、肩の力を抜きながら軽く礼を返した。
翔魔君にそういわれるとお世辞抜きで本当に上手くなったのかも、って思えるから不思議だよ・・・。
「うんうん。コレも僕の教え方が上手いからだね〜」
「そうだね」
「・・・・・・・・何でだろう、真っ向から肯定されると物凄くムズムズするんだけど・・・」
「?」
何か心の底から肯定したのに妙な顔をされたのは何故だろうか・・・。
「・・・何でもない。とにかく、じゃあ対人戦やってみる?」
人相手に戦えって!?
初心者の私に!?
「え・・・!?」
無理無理無理!!
内心の呟きをモロに顔に出しまくって顔をフルフルと横に振る私に、翔魔君はニッコリ笑った。
うわあい、嫌な予感・・・。
「『え』じゃないよ。コンピュータばっかりじゃつまらないだろ?僕が相手してやるよ」
・・・つまらないとかの次元じゃなくて。
寧ろ私、退屈はしてなかったんだけどなー・・・。
「・・・私多分、物凄い弱いよ?」
「いいから」
「・・・・はい」
有無を言わせぬ翔魔君に、結局私は押し負ける形になった。
・・・あー・・・、もう。
☆☆☆
ガチャガチャ。
ガチャガチャガチャガチャ。
「・・・」
今画面で戦っているのは、金髪の少女と私が使う猫のキャラ。
先刻から相手の飛ばしてくる氷を避けて、ひたすらカウンターを狙って居る攻撃の仕方をしている訳だけど・・・。
これがまた怖い物がある。
ゲームがじゃない。
対戦相手が。
(やばい・・・段々翔魔君の顔がマジになってきた・・・)
先刻より表情がマジになってます!!
そして攻撃の度合いも段々手加減がなくなってるんですけど!!
(でも負けるのって嫌いだし・・・どうしよう・・・)
私は世間一般で言う所の負けず嫌いだ。
こういう場所でも状況でも、それは遺憾なく発揮される訳で。
(あ、やばい!!負けそう、負けそう!!!)
割り切ることが出来ない為、私は猫のキャラで全力で抵抗を試みるが・・・。
段々攻撃を喰らうようになってきた。
まずい、まずいってこれ!!
「あっ!!ちょっ、やっ!!駄目それ駄目―――!!」
負けるぅうううう!!
我武者羅に相手に仕掛けた攻撃が、今度はすんなりと当たってくれた。
・・・あれ?避けないの?
「・・・・・・、ストップ」
「へ?」
横を見ると、向こう側に居た翔魔君がいつの間にか隣に立っていた。
「・・・・・・今日は、此処までで良い?」
何かを押し殺したような声で言われて、首を傾げる。
翔魔君にとってはあれ、勝ち試合だったのに、何故途中で止める必要があるのか・・・。
「な、何で?」
疑問符を浮かべると、何故か翔魔君は苦々しそうに顔を逸らした。
「・・・・・・これ以上やると変な気を起こしそうだから」
「?」
「良いから帰るよ。・・・変な注目浴びてるし、これ以上続けるのは無理」
「??????」
有無を言わさず踵を返した翔魔君の後ろを、慌ててついていく。
・・・確かに何か変な注目は浴びてるし・・・なんでだろう。
「・・・ったく、僕にこんな反応させたの君が初めてだよ・・・」
「翔魔君、顔が赤・・・」
「うーるーさーいーなー!良いから歩く!」
「は、はいぃ!!」
ぼやいていた翔魔君に怒られたので、私はそれ以降、その話題を口にしないように心がけた。
・・・意外と楽しいかも知れない、ゲーセン。