「此処なんか良いんじゃないかと思ってさ」
私は朝っぱらから、パフェを食べに行く店のチラシを見ながら、その話しで盛り上がっていた。
・・・まあ多少胸焼けはしそうだけど・・・、このパフェとか可愛い・・・。
でかいけど安いっていいな・・・。
「へえ・・・何か皆美味しそうだね・・・」
まじまじと見つめながら言うと、爾君は「あはは」と機嫌良さそうに笑った。
「美味しいよ〜♪僕、此処の割引券持ってるんだけど、後で分けてあげるね」
「有難う〜」
そんな私達の光景を見て、お兄ちゃんが横で苦笑いを浮かべて居るのが何となく解る。
・・・まあ、お兄ちゃんからすればこのJK(次長家長にあらず)っぽいこの会話は物珍しいんだろうけどさ。
「凄い嬉しそうにしてるね」
「嬉しいよ、そりゃ。パフェ食べるのって久しぶりだし」
「なら存分に堪能すると良いよ」
とか話してると、今度は前方・・・つまり職員室の方角から聞き知った話し声が聞こえてる。
因みに私達は今、昇降口を上がって中央階段を上がり、自分達の教室を向かってるんだけど、その途中・・・というか、中央階段上がって二階のところに職員室があるんです。
・・・地理の説明とか難しいんだけど・・・。
取り敢えず学校内の説明、わかってもらえたかな・・・。
因みに、前方に見えているのは、何かを熱心に説明しているらしい魅艶君と、それを適当な感じで聞き流しているっぽい侑魔君のコンビ。
「あ〜・・・幸村の腰をぐわしってやりたいぃ〜」
「まあ頑張れや」
投げやりだ。
すんごい投げやりだ。
「・・・・・ていっ!」
「わぁっ!?・・・てんめっ!!何しやがるこのタコ!!」
投げやりな返事にカチンと来るものがあったのか、魅艶君が侑魔君のわき腹を突いたところ、侑魔君が過敏に反応しました。
自分の悲鳴が廊下に反響したのが恥ずかしかったのか、少し顔が赤い。
そして反撃した侑魔君の一撃を回避して、魅艶君も臨戦態勢に入ってる。
・・・朝から何、この光景。
そして、私達の方めがけて二人が同時に視線を向ける。
「あ、爾と皐月と白亜ちゃ〜ん」
「・・・あ?」
「うぇ―――い!!おはよう〜!!」
「げふぅ!!!」
私達めがけて手をブンブン振った後で、お兄ちゃんに向かって魅艶君がタックルぶっ放し、お兄ちゃんはそれをモロに喰らう羽目になりました。
今の出来事を簡潔に説明すると、こんな感じになります。
「朝からどういう話しをしてるんだ・・・」
呆れたようにわき腹を摩りながらお兄ちゃんが言う。
・・・まあ、内容はあまり聞かない方がいい気がするから私は深入りしないけどね。
「あれ、二人共今日は早いんだね」
爾君が驚いたように目を瞬かせる。
・・・というか、()内に副音声として魅艶君が、という主語が入りそう。
侑魔君は大体8:00前とかには学校に居るらしいから。
「あー・・・日直なんだよ。面倒臭い」
爾君の説明に、侑魔君がかったるそうに日直日誌を見せる。
・・・成る程、職員室まで取りに行くのはそりゃかったるいだろうな・・・。
「あ、忘れないうちに聞いとかないと。明日メット行くんだけど、侑魔・・何か探してきて欲しい物とかある?」
そう聞いた瞬間の事・・・、かったるそうな顔をしていた侑魔君の目が、獲物を狙う鷹の目になった。
そして、ミンミンゼミの落ちる頃に、のメインヒロイン(だったような・・・)のような、今にも「嘘だ!!!」と叫ぶ直前みたいな表情になる。
・・・何で知ってるのかって、昨日の夜はお兄ちゃんと専らそのゲームの謎解きに熱中していたからですが何か。
取り敢えず言えるのは、この時の侑魔君からは妙な迫力を感じました、という事だけ。
「アリハトのOVA情報。それからエリオルトの漫画情報」
声が、いつもと違わないですか?
言った侑魔君の声は、本当に事件の直前・・・嵐の前の静けさというに相応しい淡々とした物だった。
「アリハト?」
「侑魔君が心の底から愛してる恋シュミゲームのことだよ」
聞き返した私に、爾君が小声で答えてくれた。
次の瞬間、
「そう!!!正式名称はアリスのハートの国って言う恋愛シミュレーションゲームなんだけど、コレに出てくるエリオルトって言うキャラが俺無茶苦茶好きでさぁ!!!」
「え?」
何か必要以上にキラキラした表情で侑魔君がこっち向いて説明して来ました。
え、何かキャラ違わない?
こんなキラキラと物解説する人じゃなかったよね確か。
「もう目茶目茶ヤバイんだよ!!!可愛さという面でも格好良いという面でもヤバイ!!とにかく凄ぇんだ!!」
「あ、あの侑魔君・・・?」
ヤバイハヤバイと連呼してる貴方のキャラ崩壊こそがヤバイと思うんですが私は。
テラキャラ崩壊wwwとか言うテロップが脳内で流れた気がした。
「しかもさあ、この間やっと・・・やっとエリオルト落ちの小説が出てさぁああ!!それがまたもう可愛いの何のって!!!吐血のしすぎで死ぬかと思った位だ!!!」
「そ、そうなんですか?」
解ったから頬染めてうっとりと花飛ばさないで!?
何か普段が普段だから凄い怖いよ!!??
侑魔君の後ろに広大なお花畑が見えるのは気のせいですか!?
「ああそうだとも!!!普段は直球タイプなのに、ふとした瞬間に滲み出る黒さが良い!!!アレはある種の破壊兵器だよなアレ!!!御蔭で俺の心臓はときめきすぎて穴ぼこだらけになってるぞ!!」
「それかなりやばいんじゃない・・・?」
吐血も相当だと思うケド。
「嗚呼もう何でエリオルトってあんなに可愛いんだ!?俺を殺す気かと問いたいね!!」
「あ、あの・・・侑魔君どうしたの?」
横に居るお兄ちゃんに震える声で質問すると、お兄ちゃんが苦笑した。
「・・・この子この話題になると目の色変わるから」
「よっぽど好きなんだね・・・」
「大好きだ!!」
「ホラ、デレ全開。お花満開」
「・・・」
お兄ちゃんの台詞に対して私が放った台詞に、笑顔満開の侑魔君と、それに対する魅艶君を始めとする三人の反応に「・・・いつもの事なの?」みたいな気持ちになる。
・・・色んな意味で最初の印象を大きく裏切る人だなぁ・・・本当。
☆☆☆
「あ、そうだ。今日どっちから先に行く?」
「え?」
「放課後、メットかパフェ・・・どっちから先に行くつもりかなーと。それによって進路が変わるから」
ふとお兄ちゃんに問いかけられて、先刻の侑魔君の暴走で頭が一杯で反応する暇が無かった私は、思わず聞き返してしまった。
しかしその可能性もちゃんと頭に入れてくれていたらしく、爾君が苦笑しながら再度説明してくれた。
・・・んー、どうしようかなー・・・。