(・・・男の人の家に来るなんて、初めて・・・)
適当に座ってて、と言われた場所にちょこんと腰を落ち着けながら、小さく溜息を吐く。
因みに私が今居るのは、翔魔君の家だったりします。
先日のファミレスでちょろっと名前(?)というか名称が出た翔魔君のお兄さんに呼ばれたからって事で。
っていうか・・・結構漫画の数があるみたいだなー・・・なんて翔魔君の部屋に視線を向ける。
皆が皆、思い思いの事をしている。
例えば優君と翔魔君と魅艶君はパソコンで何かのゲームをやっていたり、爾君と湊君と時雨君とお兄ちゃんはゲームをやっていたり。
そして何故か隅っこで小説を読んでいる侑魔君が居たり。
・・・男子ばかりのグループと一緒に男子の部屋に来る羽目になるとは・・・。
(あ、そういえばお兄ちゃんも男だった・・・)
すっかり忘れてた事実を思い出し、ポンと手を打つ。
(何か・・・完全にカテゴリが゛従兄弟゛だから、すっかり忘れてた)
かなり失礼な話だけどね。
だってお兄ちゃんのテンションだと全然異性って感じしないし、寧ろ近いのは゛友達゛?
まあそんな感じだし・・・。
「初めまして、白亜ちゃん。俺が翔魔の兄貴の、翔焔です」
考え事の最中に、行き成り背後から声を掛けられた挙句、背中に指をスーッと這わされて「ひょわぁ!?」とか妙な声が出た。
慌てて振り返ると、線の細い・・・大きくなった翔魔君としか言い様のない青年が立って、ニコニコと笑っていた。
「は、初めまして!」
ほぼ反射的といえる動作で頭を下げて、挨拶をする。
うわー、もう、背中とか本当に勘弁してほしいよ・・・。
「兄貴、行き成り背後から声かけるなよ・・・。白亜ちゃん怯えちゃったじゃんよ」
とか言いつつ隣で眉を顰める翔魔君にも、驚いた。
この兄弟は気配を消すのが上手いらしい。
文句を言う翔魔君に対しても、お兄さんは悪びれなく笑顔を浮かべて見せた。
「はははっ、すまんすまん。俺可愛い子驚かすの大好きだからさ」
何とリアクション返せは良いんですかそれ。
寧ろ私を可愛いのカテゴリに入れたら普通に全国の女子に怒られますよ。
もっと広い視野を持ちましょう。
「・・・悪趣味」
「お前に言われたくない」
「「確かに」」
「お前らぁ・・・」
「「うわ、やっべ!!」」
翔魔君の声に対してお兄さんの声と、それに同意する魅艶君と侑魔君の声が揃う。
結果として翔魔君に睨まれてたけど。
「取り敢えず、説明を手短に済まそうか。ながったるく喋るの嫌いなんだよな、俺」
何か笑顔でサラッと自分本位な事を・・・。
誰かと被る・・・。
(翔魔君だ・・・。翔魔君を大きくしたバージョンが此処に居る!!)
もう多分゛将来翔魔君が大きくなったらこんな風になって欲しいわねウフフフフ゛とかの次元も軽く超えてる。
寧ろ多分こうなるわね、アハハハみたいな風に感じる。
「・・・白亜、思考が駄々漏れ」
「え!?あ、嘘!!」
お兄ちゃんに小さく溜息を吐かれて、ようやく私は考え事か顔に出るタイプなんだ、と悟りました今日この頃。
コホン、と小さな咳払いが聞こえたので、私達はようやく視線をお兄さんの方に戻す。
「さて、集まって貰ったのは他でもない。・・・今年は仏滅の年だってお知らせだ」
『げ』
ニコッと笑って聞きなれない事を言ったお兄さんに、全員の声がハモる。
かなり嫌そうに。
「・・・仏滅?・・・カレンダーとかに書いてある奴ですか?」
質問して問うと、顔を顰めている八人に楽しそうな目を向けていたお兄さんは、私で視線を留める。
うーん・・・真っ向から視線向けられると、どうも・・・やり辛い相手だなー・・・なんて思いつつ。
「まあ似たような物かな。違うのは、コレは何百年かに一回ある物って点か」
「・・・?」
仏滅って言うと、カレンダーに乗ってて、その日に結婚式とかを持ってこない方が良い・・・?程度の知識しかない。
寧ろコレすらもあやふやだ。
「仏は仏でも、ここで言う仏って言うのは、閻魔大王の事を指すんだよ」
「閻魔大王って、あの、舌を抜く・・・」
「それそれ」
翔魔君の補足に、これまたあやふやな知識を披露する。
・・・閻魔大王が滅する?それって死んじゃったって事?
神話の世界の話しだと思ってたケド、こういう空気で言われると何となくリアリティーが湧くのが不思議だ。
「って事は・・・また結界が揺らぐのか・・・」
「だから妖怪がこんなに荒れてるんですね・・・」
「しかも・・・お兄さんが知らせたのが今って事は・・・」
「そう、今が中盤位だから、まだまだこれから酷くなるよ☆って話」
『うげ・・・』
侑魔君、爾君、時雨君の順で発言した所で、お兄さんが笑顔でまたもや軽いノリで言っちゃまずい事を言ってのけた。
三人の声がまたしても綺麗にハモる。
「いやあ〜はっはっはっはっ。皆揃って嫌そうな顔するな〜」
お兄さんは全力で楽しそうですね。
・・・やばい、室内にどよんどよんした空気が・・・。
「え、閻魔大王が死んじゃったって事は、地獄とかどうなるんです?」
かなり大問題なんじゃないかな、とは思う。
だって閻魔大王って、地獄の主か何かで、でもって・・・確か、死者が天国に行くのか地獄に行くのかを決める人じゃなかったっけ。
そんな人が死んじゃったら、確実に地獄とかパニックになってそうな気がする。
・・・まあ、あの世界にパニックが起こる図も想像し辛いけど。
「死んじゃったって言うか、代替わりしただけだろうから・・・多分あっちは何の問題もないよ。ただ、問題なのは・・・」
「閻魔大王が代替わりすると、世界が歪む。・・・いや、或いはもう歪んでるかも知れないけどね」
お兄さんの言葉を、翔魔君が引き継いだ。
どうやらお兄さん、途中で喋るのが面倒臭くなってきたらしい。
「どういう事・・・?」
世界が歪む。
・・・取り敢えず、不穏な気配を感じ取って思わず質問する。
「神様は死んだ後此処に来るんだけど、その際に自分の望みを一つだけ世界に反映させるんだ。その願いによっては、世界の理が歪んだりとかする訳」
つまる所、神様の退職金みたいな物なのかな・・・と軽く想像した。
・・・そんな規模の物じゃない事は知ってるけど、こうでもしないと想像つかないんだから仕方無い。
だって神様なんて私会った事もないし、正直今まで存在を信じても居なかったんだから。
・・・この人達だと何か説得力あるから今何となく信用ムードになって来てるけどね。
「ただ、世界全体に影響及ぼせる期間も決まってて、それは凄く短いんだ」
「例えば、戦争なくなって平和に〜とかだったら、世界規模で戦争がピタリと止まるけど、それも数年の間だったり」
「世界がマッチョで溢れたり」
魅艶君が何となく説明をして、それを優君が引き継いで。
流石の神様でも、世界レベルの望みは叶っている時間が短いらしい。
因みに最後の台詞に関しては、誰が言ったのかなんてもう解るよね?
「そんな奇特な願い事をかます神様がいない事を願う」
「そんなの時雨位だから心配ないと思うよ」
「はぁ〜?お前マッチョ馬鹿にすんなよ」
「「してないよ別に」」
お兄ちゃんと湊君の台詞を聞きつけて、時雨君が反論をする。
でも時雨君、本当にそんな願いは聞き入れられない方が・・・。
というか何で世界規模の願いがマッチョなのか。
「はいはい静粛に」
翔魔君がパンパンと手を叩いたので、皆の視線が其方に集中する。
「で、その影響で妖怪たちも暴れる暴れる。ついでにここぞとばかりに結界壊して外に出ようとしたりするから・・・」
「大変じゃないですか!!」
お兄さんの説明に、慌てて身を乗り出す。
結界が壊れたらどうなるのかなんて解らないし想像もつかないけど、何となく漠然とそれだけは思った。
まあ、お兄さんの説明だと緊迫感がほとんど無くてそこまで至るのも若干タイムラグがあったけどね。
「まあ、何百年かに一回ある事だから。・・・・ってかね、大変なのは君なのよ」
「へ?」
不意に水を向けられて、疑問符を浮かべる。
私が、大変って?
「・・・白亜ちゃん、自分の体質覚えてるよね?」
「・・・あ」
そういえば、私の体質は妖怪吸引体質。
これから妖怪の暴走が増える
→つまる所妖怪に出くわす場面が増える
→私狙われやすい体質
→格好の餌
→やばい
爾君の発言によって、単純化された思考でその結論に行き着き、自分がこの先かなりやばい状態になるであろう事を知る。
「・・・かなり大変な事になると思うケド、頑張ってね☆」
「えぇええええええ!?」
「大丈夫、いざとなったら此処に居る男共が守るだろうから!」
「そうそう。な!お前ら!」
『勿論』
お兄さんと翔魔君の言葉に即答で返してくれた皆の台詞が、ジンと胸に来る。
実際皆先刻まで凄く面倒臭そうな顔してたから、これがどれだけ大変なのかも何となく解るだけに、余計に嬉しい。
「皆・・・っ」
どうしよう。
キュンキュンする。
何かもう顔暖かくなってきた。
(・・・うわあ、どうしよう・・・。嬉しい・・・)
頬を押さえて溜息を吐く。
「あ、あと、翔・・・四神の方・・・目を光らせとけよ」
「解ってるよ」
「?」
「・・・こっちの話し。もう少ししたら教えるから」
耳に飛び込んできた台詞に、疑問符を浮かべて首を傾げたが、翔魔君達には笑顔で誤魔化されてしまった。