「あ、ごめん。人が居るとは思わなかった」
「・・・いや、良いケド、急に凄い勢いでドアが開いたから、吃驚しただけ」
先刻開けた反動で勝手に閉まるドアを見ながら、大して悪びれも無く謝る翔魔君。
・・・一瞬ドアが壊れたような音がしたけど・・・機嫌でも悪いのかな・・・。
「・・・ふーん・・・、ところでどしたの?教室に一人って。誰か待ってる?」
私の反論を軽く流して、翔魔君は私に視線を向けた。
その質問には、首を横に振って応える。
「そういう訳じゃなくて、考え事をしてたんだ」
そう応えると、翔魔君はまじまじと私の顔を見つめた後、何事かを考えて、苦笑した。
「あー・・・はいはい・・・」
「そういう翔魔君は?忘れ物?」
「まあね。・・・雑誌をちょっと」
「雑誌?・・・芸能雑誌か何か?」
「・・・・・・・・・そ、そんな感じ?・・・あはは、ははは」
尋ねると、何故か盛大に視線が逸らされた。
・・・あー、見られると疚しい系の物ですか、其の袋の中身は。
「・・・笑いが乾いてるんだけど」
解ってて敢えて溜息吐いて呟くと、また「あははは」と返って来る。
「ヤだなぁ、そんな事ないよぉ」
間延びした口調がかえって怪しさを際立たせてるんだけど・・・。
突っ込まない方がいいかな。
「・・・まあ良いや。・・・私もそろそろ帰ろうかな・・・」
追求の手を諦めると、翔魔君はホッとした様子で袋の中身を鞄の中に仕舞いこむ。
それから顔を上げて、私にやんわりと笑みを向けた。
「それなら一緒に帰る?途中までだけど」
意外な人から、意外な申し出を受けたような気がする。
・・・だけど、丁度一人で帰るのは不安だと思ってたし・・・。
何よりも、断る理由がない。
「邪魔じゃなければ」
控え目にそう言うと、ニッコリと笑顔が返って来た。
「全然良いよ。・・・じゃあ帰るかー」
言いながら、さっさと教室のドアを開けて出て行った翔魔君の後に続く。
隣に並んで、チラリとその横顔を見上げた。
「そういえば翔魔君って格闘ゲームとか好きなんだね」
よくお兄ちゃんとその話しで盛り上がっているのを聞く。
・・・何だか時々ゲームの話しではなく二次創作の方の話しらしき物も混じってるけど。
「ああ、兄貴もそうだし、僕も結構やるよ」
お兄さんが居るんだ―・・・と思いながら「へえ・・・」と相槌を打つ。
「お勧めの奴とかある?」
「んー・・・皐月にも進めたんだけど・・・プレイ・レッドって言うのがある」
ああ、そういえば最近お兄ちゃんはそれの家庭版を購入したとか何とかで・・・結構な頻度でゲームをしているらしい。
現に昨日もやってたのを見たし。
「それ・・・操作簡単に出来る?」
「割とね。っていうか、声優が豪華で、ストーリーが凄いかな」
一言尋ねると、そんな返答をされる。
・・・格闘ゲームって、私には未開の土地だからなー・・・。
ゲームセンターとかも・・・一人で行ってもあんまり楽しくはないし。
基本的に私は休日や放課後は友達と遊ぶタイプじゃないから、寄る機会がない。
・・・友達が居なかった訳じゃないけど、あまり一緒に行動したいと思う事はなかった。
嫌いではなかったけど。
「格闘ゲームなのにストーリーにも凝ってるんだ・・・」
「格闘ゲームだからって舐めたら驚くよ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
問いかけると、ニヤリとした笑みが返って来た。
・・・わあ、悪党っぽいなあ。
「じゃあ今度一緒に行く?ゲーセン」
「本当?行きたい行きたい」
「じゃあ今度一緒に行こっか」
「うん。楽しみにしてる」
そう笑いながら、自然に「一緒に行きたい」と口にした自分に驚いた。
・・・今までだと「機会があったら」とかそういうおざなりな返答しか返さなかったのに。