(忘れ物取りに来た生徒とかかな・・・)
 
ひょっとしたら妖怪かもしれない・・・という嫌な想像をする私の耳に、廊下から話し声か届いたのは、その時だった。
 
「この間出てた新刊なんだけど、読んだ?」
 
あー!!まだ買ってねー!!」
 
・・・・・・今一瞬でも不安感に襲われた私って一体・・・。
 
(絶対あの二人だ・・・っていうか声でけー・・・)
 
脱力感に見舞われながらも、ホッとしている自分が居る事に何となく腹が立ったり。
 
「あ、じゃあ明日帰りにでもアニメット行く?」
 
「マジでか!!行く行く!!じゅうおん♪の新刊買わなきゃ〜」
 
「・・・お、そういえば俺も翔魔から素敵眼鏡が表紙の雑誌見つけたら買ってきてといわれてるからなー・・・」
 
だって、この会話聞いてホッとできる自分が何か・・・ねえ。
 
どんだけ追い込まれてたのよ・・・みたいな。
 
そんな感じの心境。
 
「じゃあ明日は―・・・ってあれ?」
 
丁度そのタイミングで教室のドアが開き、お兄ちゃんと爾君の二人がひょっこりと顔を出した。
 
それから私を見つけて、少し驚いたように目を瞬かせる。
 
「あれ?まだ残ってたのか・・・って何かデジャヴを感じるな・・・」
 
「あはは、今から帰る所なんだ」
 
っていうかこの二人の会話濃いなー・・・本当・・・、なんて乾いた笑みを心の中でのみ浮かべながら、軽く返す。
 
まあ、嘘は言ってないし。
 
「そっか。じゃあ一緒に帰る?」
 
「うん!そうする!!」
 
願っても無いチャンスだ、と即答で頷いて返した私に、お兄ちゃんも何処か上機嫌そうに笑った。
 
良かった、コレで帰り道の不安も無い・・・。
 
「けっ、それでフラグを立てたつもりか・・・この妹萌えが!!」
 
だから違うっつってんでしょ!?何で俺毎回変態扱いなんだよ・・・」
 
「それは姉さんが姉さんであるが故・・・かな☆
 
・・・・・・へえ、そういう事言うんだ・・・
 
うわ、黒っ!!何か黒いの出た!!ごめんごめん!!」
 
・・・何か、置いてけぼり食らってるなー・・・私。
 
内心で小さく溜息を吐いて、楽しそうに漫才やってるお兄ちゃん達を半眼で睨む。
 
「・・・帰らないの?」
 
「「ああ、帰る帰る」」
 
・・・よく脱線する二人だなー・・・。
 
結局この二人はどうやら明日提出用のノートを取りに来ただけらしく、それを取って直ぐに私達は教室を出た。
 
廊下を歩いている間にも二人の会話は絶え間なく続き、正直私は入り込む隙間がなくてつまらない思いをしている訳だけど・・・。
 
・・・気付いてくれるかもなんて期待は最初からしてないし。
 
伊達に長い事従姉妹やってないもの。
 
「あ、そういえば・・・白亜も明日アニメット行く?」
 
アニメットといえば・・・アニメの製品とかを大量に置いてあるていうあのお店かな・・・。
 
・・・正直言って行ったことはないけど・・・興味はある訳で。
 
・・・私もアニメ見ない訳じゃないから、少し位は解るかも知れないし。
 
ただ、私は恋シュミ専門だからあまりアニメを見ないってだけで。
 
前住んでた所だと店自体が遠くて行く気しなかったし。
 
「んー・・・着いて行っても良いなら。・・・あと、置いていかないなら」
 
「置いて・・・?いや、着いて来るってんなら大いに構わないよ」
 
そういいながらも、お兄ちゃんは一つの事に集中したら周りがおざなりにタイプらしいので、取り敢えず私はお兄ちゃんに紐でもつけておこうかな、と考える。
 
・・・公園に連れて行ってくれると言って結果自分は近所の友達を見つけて、私を道半ばで放置して自分は遊びに行ったという幼い頃の記憶を、私は忘れない。
 
忘れるものか。
 
「その後、パフェ食べに行こうって話してるんだよね。女の子居た方が僕らも助かるし」
 
「助かるのは主に君だよね。別に俺パフェじゃなくてもいいし」
 
酷いよ姉さんっ!!僕と約束してくれたのにっ!!
 
いや約束違えるつもりないのに何この言われよう!!
 
・・・そういえば爾君は甘党らしい・・・。
 
・・・男の子でパフェって珍しいかも。
 
成る程、確かに女の子と一緒に行った方が「付き添い」って事で済むしね。
 
「パフェかー・・・最近食べてないから、行きたいな。是非」
 
苦笑混じりに頷くと、爾君の表情が当社比で七十倍輝いた。
 
「んじゃ決まり。明日はメット行って、そこからパフェ食べ放題に行こうか!!」
 
楽しそうに笑うお兄ちゃんに軽く頷いて見せると、横から爾君に突かれた。
 
「白亜ちゃんってケーキバイキングとか好き?」
 
「バイキングってか、ケーキは好きだよ」
 
一応コレでも女の子ですから。
 
「じゃあ今度ケーキバイキング一緒に行かない!?凄い美味しいところ知ってるから!!」
 
「あ、いくいく!!」
 
最近ケーキあんまり食べてないんだよね・・・、などと考えながら、勢い良く頷く。
 
「・・・何か、女の子同士の会話でもいけるんじゃね?コレ」
 
はぁぁ!!??僕は女じゃない!!
 
「いや知ってるよ、例えの話しだから」
 
なんてノリで会話しつつ、私達は帰り道を歩く。
 
・・・会話についていけない事は多いけど、何か・・・こういうのって良いなー・・・と思う。