(・・・まあ、学校内って多少賑やかでも可笑しくはないしね・・・気にしないで帰ろうーっと)
人間ポジティブ思考が大事だと思う。
って事で、特に騒ぎを気に留める事もなく、私はズンズンと廊下を歩いて進んで行った。
暫く行くと、前方から声が今日一日で結構聞き慣れた聞こえてくる。
「ってかさ、うちら結構のんびり歩いてるけど平気かね」
「へーきでしょ。別に僕らが動かなくても、侑魔達辺りが片付けてるよ」
「いいのかそれで」
「めんどいし」
魅艶君と、時雨君・・・?
手にお茶を持って、飲みながら歩いてきたらしい。
「あれ、魅艶君達、どうしたの?」
声をかけると、二人も此方に気付いたのか、視線が向けられる。
へらへらと笑う魅艶君とは対照的に、時雨君はあんまり表情が変わらない。
「自販機にジュース買いに行って来た帰りだよ。そっちは今帰るトコ?」
言葉を示すようにお茶のペットボトルを見せてきた魅艶君に、私も笑みを向ける。
「うん。早く帰らないと、ドラマの再放送に間に合わないし」
渡る石橋の上は鬼ばっかの再放送に間に合わない・・・。
しかもその後には、嫁と姑の醜い争いを描いた・・・百合子と薔薇子があるし。
「どっかで聞いた事ある理由だな・・・」
時雨君が何事かを呟いていたような気がするけど、何のことか解らないので気にしない事にした。
ポジティブって大事だよね☆
「じゃあ気をつけて帰りなよ・・・と言いたいところなんだけどさ」
「?」
言いながら、私の横を通り過ぎて行こうとしたらしい魅艶だったが、何かに気付いたのか、立ち止まって溜息を吐いた。
「・・・そうも行かなくなったっぽい」
「「キシャアアアア!!」」
「わあ!?」
「ワーオッ!!!」
謎の叫び声と共に、天井の一角に穴が空き、謎の化け物が落ちてきました。
悲鳴を上げたのは私だけかと思いきや、どうやら隣に居た時雨君もかなり驚いたらしい。
・・・某緑の帽子を被った地味な弟みたいな悲鳴が聞こえて来た。
「どうでも良いケド青埜さんの悲鳴緊迫感なさすぎなんですけど」
「うるせぃっほっとけ!」
私も魅艶君の台詞には、思わず内心で同意してしまった・・・。
それ位緊迫感がない。
「はいはい、仕方無いなー・・・。僕が相手しといてあげるから、青埜さんは白亜ちゃん庇うか逃げるかしてて」
「任せとけ。全力で逃げる」
「って事で、白亜ちゃんも全力で逃げてて」
「ええええ!?」
にべもなく言われて、思わず悲鳴を上げる。
っていうか時雨君、決断力が嫌な方向に高いな。
逃げるって言うのに全く躊躇いがなかったよね。
「大丈夫だよー。そんなに時間掛からないからー」
安心させるように私に微笑んで、魅艶君は軽く言ってくれる。
・・・確かにその自信のある声には少し安心するけど・・・。
「シャアアア!!」
前方に居る化け物さんを見るとその安心感も一秒に1pずつ減っていくという物で。
「肉―・・・肉ノ匂イガスル・・・」
っていうか何か人語話せるんだ、この化け物。
っていうか、いつの間にか時雨君が居ない。
本気で全力で逃げたらしい。
「あ、こっちのはまだ精神ちょっとのこってるね」
「肉ゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!」
軽く言い放った魅艶君の方目掛けて、女の子が聞いたらぶち切れそうな単語を叫び、化け物が突進する。
ビロンビロンに長いあの手に殴られたら、ただじゃ済まない!!
「!?魅艶君!?」
慌てて名前を叫ぶ私に構わず、魅艶君は化け物目掛けて、腕を突き出した。
「よーいしょっと」
軽い掛け声と共に、魅艶君が化け物の顔面を鷲掴みにする。
いやいやいや、腕長いからリーチあるから!!!と思ったその瞬間―――、
「ぎゃああああああああ!!」
化け物が頭を押さえて苦しみ始めた。
暫くの間頭を押さえて、意味不明の言葉を叫びのたうちまわっていた化け物は、やがてピクリとも動かなくなり、黒い煙に包まれて消えた。
・・・今、何したの。
「はーいじゃあ次行きますか」
化け物を一匹退治した後にも関わらず、その様子はいつもと変わらない。
「グルルルル・・・」
仲間を倒されて警戒していたのか、もう一匹の化け物が遠くで唸っている。
それを見て、魅艶君は、極悪な笑みを浮かべた。
「悪はぁー・・・」
言うなり、壁に手をつく。
すると、遠く離れた化け物の居る場所・・・壁に黒い歪が出来て、その歪から黒い手が出現し、化け物を掴んだ。
「ガァ!?」
「削除する〜っと」
恐ろしく緊迫感のない声と共に、(恐らく)凄まじい力で、化け物を腕が引きずり込んだ。
結果として、その場には恐ろしいまでの静寂。
「す、すごい・・・」
感心して、思わず呟いた私の方に、魅艶君が静かな足取りで戻ってきた。
・・・あんな凄い技使った後だとは思えない・・・。
「怪我してない?」
「し、してない・・・」
何とか、無事だ。
それを確認すると、魅艶君は何処か目掛けて、視線を向けた。
「時雨ー。終わったよー」
言うなり、今まで居なかった筈の時雨君が、現れた。
・・・うわあ、多分・・・コレも魅艶君が使ったのと同じような゛能力゛なんだろうな・・・。
「いやあ、凄い戦いだった」
しみじみと呟く時雨君に、魅艶君が「おいおい」と呟く。
「グレさん何もしてないじゃんよ」
「全力で逃げていたとも」
・・・自信満々に言ってのけた時雨君に、私と魅艶君は二人揃って乾いた笑みを浮かべた。