(何か・・・嫌な予感するし、取り敢えず教室に居よう)
 
そう考えて、私は今通ってきた道を逆に戻り、教室へと急いだ。
 
取り敢えず、騒ぎの場所は近かったし、廊下に居るよりは危険じゃない筈。
 
                          ☆☆☆
 
教室のドアを開けると、見慣れた二人が座って、雑談していた。
 
「あれ?二人共まだ残ってたんだ?」
 
その姿にホッとしながらも呟くと、お兄ちゃんと爾君の二人は顔を上げて首を傾げた。
 
「白亜こそ。お前の性格だと速攻で帰ったのかと思ってたよ・・・」
 
まあ、正解だけど。
 
さっさと帰る気満々だったけど。
 
っていうかこのクラス皆帰るの早すぎじゃない?
 
さっさと帰ろうとした私が言うのも何だけど。
 
「僕は生徒会があるから、残ってたんだ」
 
「へえ、爾君生徒会なんだ?」
 
確かに真面目そうなイメージはあるけど。
 
・・・何というか、それなりに真面目でも今時の人って感じ?
 
何て言えばいいのか・・・。
 
強いて言うならギャル男みたいな・・・。
 
「まあ、大した事してないけどね。呼び出しと会議がやたらあるだけで」
 
苦笑混じりに言う爾君に感心しながら、お兄ちゃんに目を向ける。
 
お兄ちゃんもその視線で私の聞きたい事を大体理解したのか、ヘラッとした笑みを浮かべて見せた。
 
「で、俺は翔魔達を待ってるトコ」
 
・・・あー・・・教室に居ないからてっきりお兄ちゃん置いて行かれたのかと思ったケド・・・どうやら違ったらしい。
 
「白亜ちゃんは、忘れ物でもしたの?」
 
逆に聞き返されて、首を横に振る。
 
というか、転校初日だと別に学校に持ってくるものの方が少ないし、忘れ物はない。
 
「ううん、何か廊下の方が騒がしくて、嫌な予感がしたから・・・騒ぎが収まるまで此処に居ようかなって」
 
私の言葉に、二人は同時に首を傾げ、顔を見合わせた。
 
「「騒ぎ?」」
 
「気付かなかったの?」
 
「「全然」」
 
ある意味凄いな。
 
今は少し収まってるみたいだけど、先刻の騒ぎは正直結構なものだったような気がする。
 
・・・この二人、話してると夢中になるタイプなのかな・・・。
 
「俺達、かなり話しこんでたからなー・・・」
 
そのようで。
 
苦笑いを浮かべて、視線を明後日の方角に何気なく向けた私は、固まった。
 
・・・何かが、居る。
 
ドアの前に。
 
「・・・っていうか・・・今・・・教室の前に何か居るっぽくない?」
 
硬い声で言った私に、二人も視線を其方に向けた。
 
何か居る。
 
しかも、二体も。
 
何となく、直感的に゛良くない物゛だという事が解り、鳥肌が立った。
 
「あー・・・アレか」
 
「・・・全然気付かなかったから、後で翔魔達に怒られそう・・・」
 
戦慄した私に対して、特に驚く事もなく軽くぼやいていた二人。
 
何でそんなに落ち着いてるのか、と聞こうとした次の瞬間、ドアの向こうの何かが動いた。
 
「「キシャアアアアアアアアアアア!!!!!」」
 
瞬間、ドアが突き破られた。
 
そして教室の中に入ってきたのは――得体の知れない化け物。
 
強いて近い物を上げて例えるなら、ゾンビみたいな・・・とにかく見目気色の悪い生き物。
 
「!?何アレ!!」
 
ひっと短く息を飲んだ私を困ったように見上げて、二人も化け物の方に体を向けた。
 
何でそんなに落ち着いてるのか、とか色んなことを聞きたかったが、今はそんな場合じゃない。
 
ひょっとしなくても、命の危機的な状況だ。
 
「あー、えーと、今は取り敢えず細かい事気にしないで、そこら辺に隠れてて!」
 
「そこら辺って、見渡す限りの机と椅子なんですけど!?」
 
お兄ちゃんの考えに、瞬間的に反論する。
 
避難訓練じゃないんだから、机の下に隠れた所でどうにかなる相手だとも思えない。
 
っていうかもう見つかってるし。
 
「っていうかうちら直接攻撃タイプじゃないんだから、窓際で一緒にスタンバってれば良いじゃん」
 
「その手があったか!!」
 
「何!?」
 
爾君とお兄ちゃんの言う言葉の意味がいまいち解らず、聞き返す。
 
しかし、二人は私のそんな問いかけなど気に留めてくれなかった。
 
有無を言わさず、腕を両サイドから掴まれて、囚われの宇宙人みたいな体勢になる。
 
「よっし、窓際へ行くぞ!」
 
「いや、外に逃げられなくなるじゃん!!」
 
窓から飛ぶとかいったら怒るよ。
 
「「いいからいいから」」
 
二人は示し合わせたようにそう言って、私を窓際まで引っ張っていく。
 
当然、大の男二人に敵う訳もなく、私はズルズルと引っ張られていく訳で。
 
(コレだけ余裕かましてるって事は・・・何か策でもあるって事だよね・・・)
 
二人のマイペースの御蔭で大分落ち着いて来た私は、二人の顔を見上げて内心で自分に言い聞かせる。
 
こうしている間にも化け物はゆっくりと、獲物を追い詰めて楽しむように迫って来る。
 
腕だけビロンビロン長くて、大いに気持ち悪いです。
 
出るゲームを明らかに間違えていると思う。
 
「・・・っ」
 
そのドロドロとした威圧感に、息を呑んで壁際にへばりついた私を庇うように、二人は手を突き出している。
 
「「せーのっ!!」」
 
次の瞬間。
 
教室内の机と椅子が同時に動き、化け物にぶつかった。
 
「「ガッ!?」」
 
よろめいた化け物に、何処からか生えてきた大きな植物が化け物を引っ掴み、縛り上げる。
 
それから、別方向から生えてきたハエトリソウ的な草が、化け物を呑み込む。
 
・・・うわあ・・・、何かジューッて聞こえる・・・!!
 
化け物絶対中で溶かされてる!!!
 
エグイ・・・えぐすぎる・・・。
 
音だけでエグイのに、化け物の悲鳴まで聞こえるんだから。
 
「いやあ、今月何人目だっけ?」
 
「数えてないよ・・・面倒臭いし」
 
「そりゃそうか」
 
取り敢えず、今此の場で化け物を軽く退治して見せたのは、この二人だという事になる。
 
今の目の前の現象に驚きもしないし、先刻「せーの!」って言ってたし。
 
「・・・あの、二人共・・・」
 
「ん?」
 
「・・・何者?」
 
問いかけると、二人は同時に気まずそうに視線を逸らして、私に戻した。
 
・・・どうでも良いケドこの二人、息合いすぎじゃない?
 
「後で覚えてたら、説明することになるよ」
 
「そうそう。覚えてたら」
 
・・・忘れる事はないと思うケド、何故か・・・「覚えている訳ないよね」というような二人の言い方が、気になった。
 
夕日が出始めた教室の中、私達は取り敢えず散らかしてしまった机と椅子(血痕つき)を片付ける作業をする羽目になった。