(うーん…騒ぎが起こってるなら、暫く動かない方が良いかな)
あっち危なそうだし・・・
「「キシャァァアアアアア!!」」
とか思ってたら、何か・・・来ました。
明らかに人じゃない何かが。
「きゃあああ!?何か来たぁぁぁ!!!」
慌ててその場所から離れる。
私が居たのは三階の廊下へ繋がる階段の踊り場なんだけど、その壁を突き破って、廊下から何かが飛び出してきた。
「フーッ、フーッ」
荒い息遣いで、私の元へとゆっくり近付いてくる化け物とは反比例に、私は後ずさる。
怖いんですけど、怖いんですけど!!!
大事なことだから三回言います。
怖いんですけど!!!
「・・・え、アレ・・・人外のお方ですか!?ってか何コレ!!」
悲鳴のような声を上げて、壁にぴたっと張り付く私。
・・・待って、たんま。
何か私、餌として見られてますよね、コレ!!!
先刻避け損なったらしいか壁の破片で切ったのか、脹脛(ふくらはぎ)が痛い。
見れば、縦一線に血が滲んでいて、ソックスも切れていた。
痛みがあるって事は・・・夢じゃない。
「それねえ・・・一応元ウチの生徒なんだよねー」
不意に頭上から聞こえた声に、私は慌てて顔を上げる。
「へ!?」
我ながら阿呆極まりない素っ頓狂な声を上げた私の前に、もう一個上のフロアから飛び降りてきたらしい二人の姿があった。
二人はほぼ同時に私の方を振り返って、歩み寄ってくる。
ちょっと、化け物丸無視なの!?なんてツッコミよりも先に、他の人が来たという安堵感の方が先に立った。
「いやあ、怪我が無くてよかったねぇ」
「いやいや、普通にしてるじゃん!!怪我」
「まあそうとも言う」
「そうとしか言わない!!」
ケラケラと笑っていた翔魔君に対して、湊君の噛み付くような突っ込みが炸裂する。
・・・この二人って揃うと必ず喧嘩みたいな漫才に発展するんだなー・・・とか場違いなことを考えてしまった。
しかし、今の状況を見直して、そんな場合じゃない、と慌てて首を横に振る。
今は、訳の解らない化け物と対峙している危機的な状況。
確かに男の人が二人来てくれたというのは心強いけど、化け物が相手では・・・。
「あ、あのさ!?二人共・・・逃げないの!?」
慌てて二人の会話の間に割り込むと、二人の視線が此方に集中する。
「いや、逃げてどうするのさ・・・僕らの仕事、コレの討伐だし」
「ええ!?」
あっけらかんとした表情で化け物の前に立つ翔魔君の顔には、恐怖とかそういうものはない。
先刻教室の中で見た物と全く同じような表情だ。
ってか、え゛!?討伐?!コレを!?
っていうか、コレ(もしくはそれに近いもの?)の存在を前々から知ってたって事!?
どういう状況なの、コレは!!
「直ぐ終わらせるから、此処でじっとしててくれる?」
ニコニコと笑いながら、それでも嫌と言わせない空気を滲ませつつ、湊君が首を傾げる。
・・・二人が何をするつもりにしても、私は邪魔にしかならなそう・・・。
仕方無い、此処は・・・。
「わ、解った」
しっかりと頷く。
そうすると、翔魔君はニッコリと笑って――、
「よしよし、良い子♪よし湊、任せた!!」
「はあ!?」
行き成り湊君に全部押し付けました。
瞬間的に、湊君の額に青筋が。
「だってぇー、僕はこの子を守るので忙しいしぃー」
「アンタも戦闘に参加しろよ!!」
ベチンッ!!
「いったぁっ!!」
何処からか取り出した湊君のハリセンが、翔魔君の頭にヒットした。
・・・どうでも良いケド翔魔君って色んな人にドツかれてるなー・・・。
「サボろうとするからだ!」
どうやら本気で叩いたのか、頭を押さえて呻いている翔魔君に、にべもなく言い捨てる湊君。
・・・っていうか、湊君多分気付いてないけど・・・翔魔君の額にも青筋が・・・。
「はいはいしょうがないなー・・・。弱っちくて怖がりな湊クンの為、動いてあげるよ」
口端を吊り上げてハッと吐き捨てた翔魔君の台詞に、ピクリと湊君が反応する。
・・・嫌な予感。
「ちょっと、誰が弱っちくて怖がりだって!?」
「湊クンに決まってるじゃーん?」
「殴るぞ!?」
「やれるもんならどうぞ。やり返すけどね」
売り言葉に買い言葉の状態で、互いに火花を散らしている。
・・・うわあ、こんな時なのにこの二人の喧嘩は健在なんだ・・・。
(仲悪い・・・のかな)
コレでこんな感じの遣り取りを見るの、二回目なんですけど。
侑魔君に聞いたらコレもいつもの事って言ってたし・・・。
「「キシャア!!」」
考え事をしている間にも、放っておかれていい加減焦れたのか、化け物が此方目掛けて突進してきた。
ギリギリで頭を屈めて回避したからいいものの、アレをまともに喰らっていたら確実に私の頭飛んで行ってます。
勢い良く再び壁をぶち壊して一度廊下へ飛び出した化け物が、Uターンしてもう一度戻ってくるのが見えた瞬間――・・・
「燃えろ!」
翔魔君が叫んだ声によりまず、化け物を業火が包み、化け物を消し炭に変える。
「弾けろ!」
湊君の言葉と同時に起こった爆発が、もう一体の化け物をバラバラにした。
「・・・凄い」
助かってホッとしたやら、二人の力に押されるやらで、体の力が抜けて・・・私は思わずヘタリこんだ。
・・・腰が抜けた・・・。
今にも床に倒れこみそうになる私をさり気なく支えてくれながらも、頭上では二人の言い争いが続いている。
「ホラ、湊がモタモタしてるからこの子に被害がいっちゃったじゃん」
「お前にも責任の一端はあるだろ!?」
「でも90%位湊に責任あるべ」
「この野朗・・・っ」
・・・・・・こんなノリで倒されたら、化け物もたまった物じゃないんだろうなー・・・なんて思いつつ。