取り敢えず私は、じゃれあっている二人の方に話しかけてみることにした。
 
何となく話しの中に入っていくのは抵抗あるけど、取っ付きにくそうな人達じゃないし。
 
お兄ちゃんも居るし・・・。
 
「っていうか今期のアニメ微妙なの多くない?」
 
頬杖を付きながら、緑の髪の毛の人がそんな事をぼやいている。
 
雰囲気的にはほんわりとした雰囲気の人で、話の内容がアレな感じでなければ話しかけるのに大して苦労しなさそうな人だ。
 
ってか、アニメの話ししてたんだ・・・。
 
道理でお兄ちゃんと話しが弾んでると・・・。
 
「んー・・・うち的にはひがしけ!が楽しみかな」
 
お兄ちゃんは緑の人の机の前で軽く膝立ち状態になりながら(隣の椅子を借りるという選択肢は無いらしい)、緑の人の話しに相槌を打っている。
 
・・・ひがしけ!って・・・、お兄ちゃんが前に電話で語ってたアニメの事かな・・・。
 
全然話しの内容についていけなくて軽く流しちゃったけど。
 
アニメ見てないから語られても解らないし・・・。
 
「あーそうそう、それはうちも楽しみにしてる」
 
アニメのタイトルを聞いた途端、緑の人の顔がパッと明るくなった。
 
どうやらこの人もこのアニメが好きらしい。
 
「あとは、白メイド?」
 
「第2シーズン決まったって言ってるけどどうするんだろうね、主人公の子死んじゃったのに」
 
「アカレンみたいに前シーズンの事無かった事にして始めたりとかしそうじゃん?」
 
「あ、ねえねえそういえば、ミンミンゼミのおちる頃にの実写さあ、一緒に行かない?」
 
「お、いいね!!」
 
よくこんなにポンポンと話しが弾むなー・・・。
 
しかも会話の大半がアニメのタイトルで埋まってるのがまた凄い・・・。
 
・・・っとやばいやばい、感心してる場合じゃない・・・。
 
声掛けないと私が不審者っぽくなる・・・。
 
「あの、お兄ちゃん・・・」
 
おずおずと声を掛けると、弾んでいた二人の会話が一気に収束し、視線が此方に集まった。
 
あー、何か凄い邪魔しましたって空気が嫌だ・・・。
 
なんて考えて居心地が悪い私に、お兄ちゃんはやんわりと微笑んでくれた。
 
「ん?どしたの?白亜」
 
ポン、と頭の上に置かれた手の感触に、少しだけ落ち着く。
 
何だろう、この人・・・癒しのパワーでも持ってるのかな・・・。
 
そんな私とお兄ちゃんの図を見て、横で目を瞠っている人が約一名。
 
それは、先刻までお兄ちゃんとアニメ談義で盛り上がっていた、緑の人。
 
お兄ちゃん・・・だと!?
 
何か後ろに稲光轟かせて驚いているんですが、何なんでしょうか。
 
「?」
 
「貴様、同い年の女の子捕まえて『お兄ちゃん(はあと)』と呼ばせる程の変態だったのか!?」
 
疑問符を浮かべて首を傾げる私を他所に、緑の人は何故かお兄ちゃんに食いかかっている。
 
・・・、いや、お兄ちゃんにも変態の気はありそうだけど・・・、緑の人も同じカテゴリに収まっていそうな気がする・・・。
 
いや違うから!!この子俺の従姉妹なの!!小さい頃からの習慣でそう呼んじゃってるだけなの!!」
 
私をぐいっと引っ張って示し、慌ててそう説明するお兄ちゃん。
 
まあ間違ってない説明だけど。
 
小さい頃から病弱だったお母さんと、それに付きっ切りだったお父さんの所為でお兄ちゃんの家に預けられることが多かった私。
 
その家で、一緒に遊んでくれる同い年の男の子の事を年上だと勘違いして「お兄ちゃん」と呼び始めてから、いつの間にかそれが癖になっていた。
 
お兄ちゃんも嫌がってはいないし、私も癖になった物を直すのは面倒臭いから、ずっとこのまま。
 
その説明を受けて、緑の人は何故か非常に残念そうな顔をした。
 
「えー・・・」
 
何でえーなんですか、そこで。
 
「えと、色無 白亜です。宜しく・・・」
 
何はともあれ、と紹介をすると、相手の人も気を取り直したようにやんわりと笑ってくれた。
 
「ああ、僕は奏緑 爾。宜しくね」
 
「あ、うん。宜しく!」
 
コクコクと頷いた私をニコニコと見た後で、急に真面目な顔になり、爾君はぐっと顔を近づけてきた。
 
皐月君に変な事されたら直ぐに言うんだよっ
 
しねえよ!!何で俺開始早々変態キャラになってるんだよ!?
 
そ・れ・は、日頃の行いじゃないのかな、兄さん(はあと)
 
ぎゃああああ!!キメエエエエ!!!
 
「・・・」
 
何なんだこの人達は。
 
自己紹介をしたからと言って直ぐに仲良くなれるとは思ってないが・・・。
 
何か完全に置いてけぼりを食らっている。
 
「あ、そうだ。白亜、どうせ同じクラスに居るなら、うちのグループに来る?」
 
お兄ちゃんがふと提案して、私の方を見る。
 
・・・あ、置いてけぼりにしてた割りに、私の存在忘れてなかったんだ・・・。
 
「あ、それいいね。・・・男ばっかりで良ければ、の話しだけど」
 
爾君も、すんなりと同意してくれた。
 
「いいの?」
 
聞き返すと、二人共やんわりと笑ってくれる。
 
・・・この二人笑顔の質が似てるんだなー・・・なんて思いつつ。
 
「おうともよ。遠慮しないでどうぞ」
 
「とか優しい振りして実は・・・なんて事にならないようにね♪
 
するかあああ!!
 
「はははは・・・」
 
・・・取り敢えず私の目下の目標は、この二人のテンションと話題についていけるようにならなければ・・・という事でしょうか。
 
・・・前途多難だ。