決めた。
 
侑魔君に構ってもらおう。
 
昨日の様子から見てまず、無視されたり嫌なリアクションを取られる可能性は少ない筈(と信じたい)。
 
侑魔君は、隣に座っている桃髪の人と楽しそうに雑談中。
 
・・・コレはこれで話しに入るのはかなり勇気が居るけど、話題の内容考えたらこっちの方が安全な気がする・・・。
「でさ、昨日なんかソイツからの電話が物凄く鬱陶しくてさー・・・」
 
「うーん・・・」
 
「電話無視してたらメール来るし・・・リアルにうざかった・・・」
 
「電源切ってブラックリストに登録しとけば良かったんじゃない?」
 
「それはそれで会った時が面倒臭い…」
 
何やら面倒臭そうに唸りつつ、クロスワード雑誌を開いている侑魔君に、隣の人が相槌を打っているらしい。
 
私は意を決して、二人の世界にダイブする。
 
「あ、あの侑魔・・・君」
 
おずおずと声を掛けると、二人の会話が一度止まって、同時に視線が向けられる。
 
うわー、ごめんなさい
 
仲睦まじい二人の世界に乱入しちゃってごめんなさい。
 
「ん?」
 
侑魔君は振り返り、私だと気付いてから「どうした?」と表情を変えないまま目で問いかけてきた。
 
「…あれ、転校生と知り合いなの?侑君」
 
「一応」
 
後ろから投げかけられた問いにコクンと一つ頷いて返してから、侑魔君は再び私に目を向ける。
 
・・・あー、どうしよう。
 
話しかけたは良いケド話題を考えて居なかったという罠
 
「・・・・・・」
 
「・・・どうかした?」
 
いつまでも喋らない私に、怪訝そうに首を傾げてみせる侑魔君。
 
その動作が心なしか、猫っぽい。
 
「・・・・・・・・・えーと・・・」
 
話題を探して目を泳がせる私をまじまじと見て、侑魔君も何かを悟ったらしい。
 
視線を一度お兄ちゃん達の方に向けて、
 
「・・・・ちっ」
 
小さくだが、舌打した。
 
(うわ、怒らせたっぽい?)
 
何が彼の逆鱗に触れたんだろうか、と考えて居る間にも侑魔君は眉間に皺を寄せて、溜息を吐いた。
 
真正面でそれを受けている側は堪ったものじゃないんだけどなー・・・。
 
しかし、そこで侑魔君の視線が私ではなく、違う方向に向いていることが解った。
 
「皐月ー!」
 
軽く立ち上がって、教室の端っこで喋っていたお兄ちゃんに声を掛けた。
 
お兄ちゃんも話しを中断して、此方を向く。
 
「んお?何?」
 
言いながら近寄ってきたお兄ちゃんに咎めるような視線を向けてから、侑魔君は私の背中をお兄ちゃんの方に押した。
 
何か押し付けられた気分なんだけど・・・。
 
「従姉妹なら面倒見てやれよ・・・。せめて馬鹿レンの皆に紹介ぐらいはしてやりんしゃい」
 
頬杖を突いて言った侑魔君に、お兄ちゃんは私を見て口を「あ」の形に開いてから苦笑した。
 
「あー、忘れてた。ごめんごめん。翔魔ー」
 
私に軽く謝って頭を撫でてから、お兄ちゃんは壁際で話していた四人の方に声を掛けた。
 
そして、翔魔という名前らしい赤毛のお兄さん(といっても同い年か)が顔を上げて、怪訝そうな表情になる。
 
「あ?何だよ橙」
 
「ちょい来てくれない?」
 
ひょいひょい、と手招きするお兄ちゃんに、怪訝そうな様子で近寄ってくる翔魔君(という呼び方で決定)。
 
私達の方へ来た翔魔君は、私とお兄ちゃんを見比べて、最終的にお兄ちゃんで視線をストップさせる。
 
・・・どうでも良いケドこの人チャラいなー・・・。
 
「転校生がどうかした?」
 
そういわれて、お兄ちゃんはにへらっと笑いながら、私を軽く手の平で示す。
 
「この子、俺の従姉妹なんだ」
 
その言葉に、私は出来る限りの愛想笑いを浮かべて、軽く会釈した。
 
私だってそれなりの礼儀は知ってるんだからねっ!!
 
「えーと・・・お兄ちゃんがいつもお世話になってます」
 
そう言って顔を上げると、翔魔君は何秒か黙り込んで、考えるような沈黙。
 
「お兄ちゃんって・・・同い年じゃ・・・・・・あー・・・」
 
「???」
 
それから翔魔君は、何かを納得したような顔をして、ニヤニヤと笑いながらお兄ちゃんの肩を叩いた。
 
「皐月、駄目だよ幾ら妹萌えがあるからって・・・同い年の従姉妹にそれは」
 
違ぇよ!!!
 
変な誤解を生んだらしいです。
 
まあ、私じゃないから良いケド。
 
「・・・こんな連中の居るグループでよければ、どうぞ。此処に馴染むまでは利用するといい」
 
駄弁っているというより最早コントを繰り広げていると言って差し支えのない状態の二人を見ながら、小さく言ってきた。
 
・・・気を遣ってくれたらしい。
 
「あ、有難う・・・」
 
そう言うと、侑魔君は小さく笑った。
 
その後ろから、ひょこんとピンクの髪の人が見下ろしてきて居る。
 
・・・先刻侑魔君と話してた人だ。
 
「あー、そういう事なら、僕とも宜しくね
 
「え?」
 
ニッコリと笑って私に言ってきた人物に、疑問符を浮かべる。
 
・・・この人もグループの人なんだ・・・。
 
「この人は、桃園 優だ。大体俺と一緒に行動してるから、どっちかに声掛けたい時はどっちかを探すといい」
 
「ははは」
 
侑魔君の補足に、優君は軽く笑った。
 
・・・本当に仲が良いんだなー、と思いつつ。
 
「・・・はあ」
 
というリアクションだけを、返しておく。
 
皆濃いなー・・・このクラスの人。